夏の夜、天の川をはさんで織姫星(ベガ)と向かい合うように輝く星があります。わし座のアルタイル、七夕の彦星です。夏の大三角の一角として、この季節の夜空でひときわ目を引きます。
穏やかな夏の風物詩のように語られるアルタイルですが、その素顔は意外なほど激しいものです。この星は、わずか9時間ほどで1回転する猛烈な高速自転をしており、その形は球ではなく、横に張り出して潰れています。しかもその潰れた姿は、想像ではなく、実際の観測でとらえられています。

アルタイルとは?|夏の大三角の白い星
アルタイルは、わし座のα星です。見かけの等級は0.77等で、全天では12番目に明るい恒星です。地球からの距離はおよそ16.7光年と、一等星のなかではとても近い星のひとつです。
表面温度は約7500度で、白っぽく輝きます。ベガ、デネブとともに「夏の大三角」を形づくり、七夕伝説では天の川の対岸にいる彦星として知られます。
この近さこそが、アルタイルを特別な存在にしています。近いおかげで、この星は「形」まで詳しく調べられた数少ない恒星のひとつなのです。
約9時間で1回転|アルタイルの高速自転が星を潰す理由
アルタイルの自転はきわめて速く、1回転にかかる時間はおよそ9時間ほどと見積もられています。太陽が約1ヶ月かけて1回転するのと比べると、けた違いの速さです。
これほど速く回ると、赤道付近のガスに強い遠心力がはたらきます。遠心力とは、回転するものを外側へ押し出そうとする見かけの力です。その力に引っ張られて、アルタイルの赤道方向は外へ膨らみ、星全体が赤道方向にふくらみ、極方向に少し潰れた形になります。
観測によると、アルタイルの赤道半径は極半径より約2割大きくなっています。しし座のレグルスやエリダヌス座のアケルナルと同じく、アルタイルもまた高速自転で扁平に歪んだ星の仲間です。ただし、アルタイルには他の高速自転星にはない強みがあります。それは「近い」ということです。

干渉計がとらえたアルタイルの姿
多くの星は、どんなに大きな望遠鏡を使っても、点にしか見えません。あまりに遠いため、表面の形まではわからないのです。星が潰れているかどうかも、ふつうは明るさや色から間接的に推定するしかありません。
ところがアルタイルは、約16.7光年という近さのおかげで事情が違います。複数の望遠鏡を組み合わせて分解能を高める「干渉計」という手法によって、アルタイルは表面の姿が再現されました。正確にいえば、観測データから表面の明るさの分布が再現されたのです。太陽以外の恒星で、こうして姿がとらえられた例はごくわずかです。その再現された姿には、遠心力で赤道が膨らみ、極付近が明るく、赤道付近がやや暗いという理論どおりに潰れた星の像が現れていました。極付近では遠心力の影響が小さいため重力が強く、表面温度も高くなります。
高速自転による扁平化と、それにともなう明るさのムラ(重力暗化)が、想像ではなく観測として確かめられている。アルタイルは、理論と観測がぴたりと重なった、貴重な実例なのです。

今夜、夏の大三角の彦星を見上げる

夏から初秋(7月から9月ごろ)の宵、天頂近くを見上げると、明るい3つの星が大きな三角形を描いています。夏の大三角です。そのなかで、天の川をはさんでベガと向かい合う位置にある白い星がアルタイルです。両側に小さな星を従えているのが目印になります。
肉眼では、アルタイルはただの白い一点にしか見えません。けれどその一点は、9時間で1回転する猛スピードで自転し、赤道が2割も膨らんだ、潰れた星です。しかもその姿は、私たちが実際に画像として確かめた素顔でもあります。七夕の伝説の向こうにある、激しく回り続ける星の実像を思い浮かべて見上げてみてください。
まとめ
アルタイルは夏の大三角の一角をなす白い一等星で、七夕の彦星として知られます。その最大の特徴は、約9時間で1回転する高速自転と、それによる扁平化です。赤道半径は極半径より約2割大きくなっています。
同じ高速自転星のレグルスやアケルナルと違い、アルタイルは約16.7光年という近さのおかげで、その潰れた姿が干渉計によって実際にとらえられました。理論上の扁平化が、観測として確かめられた貴重な星です。
今夜、夏の大三角の彦星を見つけたら、その白い点が実は激しく回り続ける潰れた星だと思い出してみてください。
参考文献
- NASA|Summer Triangle Corner: Altair
- Monnier, J. D. et al. (2007). Imaging the Surface of Altair. Science, 317, 342.
