夜空を見上げたとき、一晩中ほとんど位置を変えない星があります。こぐま座の「ポラリス」——北極星です。
北極星と聞くと「夜空で一番明るい星」と思われがちですが、実際はあまり目立たない2等星。一等星と呼べるほどの明るさはありません。それでも昔から旅人や船乗りに頼りにされてきたのは、「動かない」というただ一点の特別さがあるからです。
でも、もし「本当は動かないどころか、ポラリスは絶えず膨らんだり縮んだりしている」と言ったら、驚くでしょうか。今夜は、そんなポラリスの知られざる素顔をのぞいてみます。

ポラリスとは?|現在の北極星
ポラリスは、こぐま座のα星(最も明るい星)です。見かけの明るさは2等星ほどで、全天で見ても特別明るいわけではありません。夏の大三角やオリオン座の一等星たちと比べると、むしろ控えめな輝きです。
それでもポラリスが特別視されてきた理由はただひとつ。天の北極——地球の自転軸を北へ延長した先——から、わずか1度も離れていない位置にあるからです。他の星々が東から昇り西へ沈むなか、ポラリスだけはほぼ同じ場所にとどまり続けます。
なぜ今、ポラリスが天の北極付近にあるのか。これは地球の自転軸が長い時間をかけてゆっくり向きを変える「歳差運動」という現象が関係しています。実は約1万2000年後には、こと座の「ベガ」が次の北極星になることがわかっています。

ポラリスの「唯一の個性」|セファイド変光星とは?
ここからが、ポラリスをただの「目印の星」で終わらせない話です。
ポラリスは、実は明るさが周期的に変化する変光星の一種「セファイド変光星」に分類されています。約3.97日という短い周期で、星そのものが膨張と収縮を繰り返しているのです。
セファイド変光星は宇宙にいくつも見つかっていますが、ポラリスは地球から最も近い位置にあるセファイド変光星です。銀河の外にある天体までの距離を測る「物差し」としても使われてきた重要なグループで、地球のすぐそばでその代表格が輝いているのは、実はかなり幸運なことなのです。
ただし、明るさの変化幅は1.86等から2.13等ほどとごくわずかで、肉眼で「今日は明るいな」と気づくことはまずできません。星の内部で起きている変化は、思っているよりずっと繊細なのです。

なぜ脈動するのか?|星が”呼吸”するしくみ
星が膨らんだり縮んだりするなんて、想像しにくいかもしれません。仕組みを簡単に見てみましょう。
ポラリスはもともと、太陽と同じように中心部で水素を燃やして安定していた星でした。しかし核融合の燃料を使い切りに近づき、進化が進んだ結果、外側の層が大きく膨らんだ「黄色超巨星」という段階に入っています。太陽の直径のおよそ40倍まで膨らんでいると考えられています。
この段階の星の外層では、ガスの層が光を通しにくくなったり、通しやすくなったりを繰り返す不安定な状態になります。光を通しにくくなると、内部の圧力が逃げ場を失って星全体が膨らみます。膨らむと温度が下がり、今度は光を通しやすくなって、圧力が下がった分だけ星は再び縮みます。
風船を押してはゆるめ、押してはゆるめを繰り返すイメージに近いかもしれません。この膨張と収縮のサイクルが、ポラリスでは約4日ごとに規則正しく繰り返されているのです。

もうひとつの素顔|ひとりではない北極星
ポラリスには、もうひとつ意外な事実があります。肉眼では一つの星にしか見えませんが、実際には3つの星が寄り添う「三重連星」なのです。
主星のすぐそばには、公転周期およそ30年で回る小さな伴星があります。あまりに主星の光が強いため、この伴星が2006年にハッブル宇宙望遠鏡によって直接とらえられるまで、存在は確認できていませんでした。さらに外側には、もう一つの伴星が2000天文単位以上離れた軌道をゆっくりと回っています。
一人で夜空の中心を支えているように見えるポラリスですが、実際には静かに寄り添う仲間を連れているのです。

今夜、北の空を見上げると
次に夜空でポラリスを見つけたとき、少しだけ思い出してみてください。
止まって見えるあの光は、実は約4日周期で膨らんだり縮んだりを繰り返しています。しかもその変化はあまりに小さく、肉眼では決してわかりません。「動かない星」という顔の裏側で、ポラリスは静かに呼吸を続けているのです。
そしてこの星が北極星でいられるのも、地球の自転軸がたまたま今、この方向を指しているという、長い歳差運動のなかの一瞬にすぎません。動かないように見える星ほど、実はいちばん多くの動きを内側に抱えている——そう思うと、今夜の北の空が少し違って見えてくるはずです。
まとめ
ポラリスが「動かない星」として知られているのは、天の北極のすぐ近くにあるからです。しかしその正体は、約3.97日の周期で膨張と収縮を繰り返す「セファイド変光星」であり、しかも地球から最も近い位置にあるセファイドでもあります。
さらに、肉眼では一つに見えるポラリスは、実は3つの星からなる三重連星です。静止して見える北極星の内側には、脈動という小さな動きと、寄り添う伴星たちが隠れています。

参考文献
- NASA Science|There’s More to the North Star Than Meets the Eye
- NASA Science|Cepheid Variable Star in Galaxy M100
- NASA|What is the North Star and How Do You Find It?
- NAOJ|歳差ってなに?