パーサヴィアランスとは?|生命の痕跡を「地球で確かめる」ための火星探査車

パーサヴィアランスは、NASAが火星に送り込んだ探査車です。2021年2月18日(日本時間では19日)、火星のジェゼロ・クレーターに着陸しました。

MOXIE(火星酸素生成実験装置)を搭載した火星探査車パーサヴィアランスの外観
Image Credit: NASA/JPL-Caltech

目的は、火星にかつて生命がいた痕跡を探すことです。そのためにパーサヴィアランスは、地球で詳しく分析できるよう、岩石や堆積物の試料を採取して封じる仕組みを備えています。探査車の役目は、火星の上で生命の有無を最終判断することではありません。有望な岩を見きわめ、地球由来の汚染をできるだけ防ぎながら、将来の分析に使える試料を残すことです。

この記事では、なぜ試料を地球へ持ち帰る必要があるのか、そのために試料を入れる管にどんな工夫がされているのかを見ていきます。


目次

パーサヴィアランスとは|生命の痕跡を探し、試料を封じる探査車

パーサヴィアランスは2020年7月30日に打ち上げられました。車体の設計は、2012年に着陸したキュリオシティの実績を多く受け継いでいます。電源も同じ原子力電池で、太陽の光に頼らずに動けます。

大きく違うのは目的です。

キュリオシティは、火星にかつて生命が生存できる環境があったのかを調べることを大きな目的としてきました。有機物など、生命に関係する物質の分析も行っています。

パーサヴィアランスは、その成果を引き継ぎながら、古代の微生物の活動を示す痕跡を探し、地球で詳しく分析できるように岩石や堆積物の試料を採取・保存することを目指しています。

任務は大きく3つに分けられます。

  • 生命の痕跡を探す:昔の湖の底にたまった岩を調べる
  • 試料を採って封じる:地球へ持ち帰るための岩や砂を、管に密封する
  • 人が火星へ行く準備をする:火星の大気から酸素を作る実験など

キュリオシティで傷みが目立った車輪も、パーサヴィアランスでは表面の板を2倍の厚さにし、溝の形をゆるやかな曲線に変えています。

車体の下には、小型のヘリコプターインジェニュイティを抱えて運びました。インジェニュイティは72回の飛行を重ね、地球以外の惑星で初めて、動力を使って制御された飛行をなし遂げています。


なぜ試料を持ち帰るのか|火星の上では「生命かもしれない」までしか言えない

着陸地点のジェゼロ・クレーターには、35億年以上前、川が流れ込んで湖ができていたと考えられています。クレーターの中には、川が運んだ土砂がつくる三角州の地形が残っています。この湖の跡は、60か所以上の候補地からここが選ばれた大きな理由の一つでした。

湖の底には、細かい泥や粘土が静かに積もります。地球では、こうした細かい堆積物が、昔の微生物の痕跡をよく保存することが知られています。火星の湖に微生物がいたのなら、その痕跡が岩の中に残っているかもしれません。

ただし、痕跡らしいものを見つけても、それだけでは生命の証拠になりません。同じ模様や同じ鉱物が、生命とは関係のない化学反応でできることもあるからです。白黒をつけるには、性質の違う分析を何通りも重ねる必要があります。

探査車に積める装置には、大きさにも重さにも電力にも限りがあります。一方、地球の実験室には、大きすぎたり複雑すぎたりして火星へは送れない装置がそろっています。そこでパーサヴィアランスは、火星の上で有望な岩を選んで試料を採り、最終的な判断を地球に託す役割を担いました。

この違いは、岩の扱い方にも表れています。キュリオシティは、岩を砕いて粉にしてから車体の中の装置で調べる方式です。パーサヴィアランスは、岩を円柱の形のまま、直径約13mm・長さ約60mmにくりぬきます。重さは10〜15gほどで、チョーク1本くらいの大きさです。粉にしてしまうと、岩の中の粒の並び方や模様は失われてしまいます。


技術的挑戦|地球の生命を持ち込まない試料管

地球へ届いた試料を調べるとき、いちばん困るのはどんな場合でしょうか。見つかった有機物が火星のものなのか、地球から紛れ込んだものなのか、区別がつかなくなる場合です。地球は生命の痕跡であふれていて、指先が触れただけでも有機物が残ります。

パーサヴィアランスは、試料を入れる管を43本積んで火星へ向かいました。1本の大きさは実験用の試験管ほどで、長さは15.2cm未満、重さは57g未満。主にチタンでできています。試料を入れた管は、空気も漏れないように密封されます。

指紋1つの300分の1という基準

管の清浄さには、厳しい上限が決められました。地球由来の有機物は、試料1本あたり合計150ナノグラム未満です。ナノグラムは、10億分の1グラムを表す単位です。

人の指紋1つには、およそ4万5,000ナノグラムの有機物が含まれます。地球由来の有機物に対して試料1本に設けられた150ナノグラム未満という基準は、その約300分の1に相当します。さらに、生命との関連性が特に高い一部の有機化合物には、15ナノグラム未満という、より厳しい基準が設けられています。

この基準を満たすため、管はクリーンルームの中にさらに設けたクリーンルームで組み立てられました。組み立ての合間には、塵を取り除いた空気の吹きつけ、純水でのすすぎ、アセトンなどの溶剤を使った超音波洗浄がくり返されています。洗うたびに汚れを測り、仕上げに加熱して有機物を焼き飛ばしました。寸法も、髪の毛1本ぶん狂えば不合格になる精度が求められ、作られた93本から43本が選ばれています。

汚れをゼロにできないから、汚れも記録する

それでも、汚れを完全にゼロにすることはできません。探査機そのものから、わずかな物質が出てくるからです。そこで43本のうち5本は、火星の岩を入れない「ウィットネス管」にあてられました。ウィットネスは、立ち会って見届ける人という意味です。

ウィットネス管には、分子や細かな粒子をとらえる素材があらかじめ入っています。試料を採る場所の近くで、火星の上で1本ずつ開け、その場の環境に紛れていたものを記録します。

地球で試料とウィットネス管を一緒に調べれば、試料から見つかった物質が火星のものか、探査機が持ち込んだものかを見分ける手がかりになります。理科の対照実験と同じ考え方です。比べるための基準を、試料と同じ旅をさせて用意しておくわけです。

10年を超える保管に備えた試料管

管には、時間との戦いもあります。1969年にアポロ11号が月の石を持ち帰ったときの容器は、月面から地球の研究施設までの約10日間、中身を守れば十分でした。パーサヴィアランスの管は、10年を大きく超えて試料を守らなければなりません。

地面に置かれたまま長い時間を過ごすことに備えて、管の外側は白く塗られています。太陽の熱で温められて、試料の化学的な性質が変わるのを防ぐためです。


科学的意義|チェヤバ・フォールズの「ヒョウ柄」

2024年7月、パーサヴィアランスは、湖へ水を運んでいた古い川の谷の縁で、矢じりのような形をした赤みがかった岩を見つけました。大きさは約1m×0.6m。チェヤバ・フォールズと名づけられたこの岩から採った試料が、サファイア・キャニオンです。

この一帯の岩は、細かな粒子が積み重なってできた堆積岩です。調査では、炭素を含む物質や硫黄、鉄、リンなどが確認されました。これらの物質がどのような反応を起こしたのかが、生命の痕跡を考えるうえで重要な手がかりになっています。

ロボットアームの先端にある2つの装置で、岩の表面が詳しく調べられました。X線で元素を調べるPIXLと、レーザー光で有機物や鉱物を調べるSHERLOCです。すると表面に、研究チームがヒョウ柄と呼んだ小さな斑点の模様が見つかり、斑点には2種類の鉄の鉱物が含まれていました。

  • ビビアナイト:水を含むリン酸鉄の鉱物。地球では、堆積物や泥炭の湿地、朽ちた有機物のまわりでよく見つかる
  • グレイジャイト:硫化鉄の鉱物。地球では、ある種の微生物がつくることがある

これらの鉱物は、堆積物と有機物のあいだで電子がやりとりされる反応(酸化還元反応)でできたように見えます。地球の微生物の中には、この種の反応からエネルギーを得て生きているものがいます。そのため、この組み合わせは微生物がいた手がかりになりえます。

一方で、同じ鉱物は生命がなくてもできます。長く高温にさらされた場合や、酸性の環境、有機物が反応を助けた場合などです。この一帯の岩には、高温や酸性にさらされた形跡は見つかっていません。ただ、含まれていた有機物が低い温度でこの反応を進められたかどうかは、未解決のまま残っています。

この結果は1年にわたる審査を経て、2025年9月に科学誌Natureに掲載されました。位置づけは、生命の痕跡の可能性がある候補(potential biosignature)です。生命がいたともいなかったとも、まだ結論は出せません。NASAのプロジェクト・サイエンティストも、生命と関係のない説明は可能性が下がったものの、否定はできないと述べています。

サファイア・キャニオンの試料は、すでに管の中に封じられています。生命かどうかを見きわめる次の一歩は、地球の実験室での分析に委ねられています。


将来への接続①|火星の二酸化炭素から酸素を作ったMOXIE

パーサヴィアランスには、生命探査とは別に、将来の有人探査に向けた実験装置も積まれていました。火星の大気から酸素を作るMOXIEです。装置の大きさは約24cm×24cm×31cm。

なぜ火星で酸素が要るのか

人が火星で暮らすうえでの課題は数多くありますが、帰り道にも大きな壁があります。地球へ帰るには、火星の地面から飛び立つロケットが必要です。6人乗りの帰還用ロケットは全体で約50t、そのうち約31tが酸素と見積もられています。燃料を燃やすための酸素が、推進剤の重さの約8割を占めるのです。

推進剤をすべて地球から運ぶと、現在の技術では、火星に1tを降ろすごとに地球を回る軌道へ12〜13tを打ち上げる必要があります。合計すると約500tです。酸素を火星で作れれば、推進剤のうちいちばん重い酸素を運ばずにすみます。

原料は大気そのものです。火星の大気は地球の100分の1ほどと薄いものの、その約95%が二酸化炭素なので、どこでも手に入ります。

酸化物イオンだけを通すセラミックス

MOXIEは、吸い込んだ火星の大気からフィルターで砂ぼこりを取り除き、圧縮して800℃まで加熱します。その先にあるのが、固体酸化物電解と呼ばれるしくみです。電解とは、電気の力で物質を分解することです。

  • 陰極:二酸化炭素(CO₂)が電子を受け取り、一酸化炭素(CO)と酸化物イオン(O²⁻)に分かれる
  • 電解質:セラミックスの板が、酸化物イオンだけを反対側へ通す
  • 陽極:酸化物イオンが電子を手放し、酸素(O₂)になる

電解質に使われているのは、ジルコニアを主成分とするセラミックスです。酸化物イオンがセラミックスの結晶の中を十分な速さで動くには、高い温度が欠かせません。MOXIEでは、効率と材料への負担のかね合いから、800℃が選ばれました。

難所は「電圧の窓」

運転でいちばん気をつかったのは、電極にかける電圧でした。電圧が低すぎると、二酸化炭素が分解されず、酸素は出ません。反対に高すぎると、できた一酸化炭素までが分解されて、炭素が電極にたまります。炭素は電極の働く面積を減らし、電極を割ってしまうおそれもあります。

酸素は出るが炭素は出ない、その間の電圧の幅は、基準の運転条件で1枚のセルあたり約0.17Vしかありません。しかもこの幅は、温度が下がるほど狭くなります。MOXIEの10枚のセルには、ヒーターに近いものと中央のものとで最大10℃の温度差がありました。そこで電圧は、いちばん冷えたセルでも炭素ができないよう、控えめに設定されていました。

16回の運転で、合計122g

MOXIEが初めて酸素を作ったのは2021年4月で、約1時間で5.4gでした。2023年8月の16回目まで、昼と夜、火星の1年を通したさまざまな条件で運転し、合計122gの酸素を作っています。NASAによると、小型犬が10時間で吸う量にあたります。最も効率のよいときには1時間に12g、純度98%以上で、当初の目標の2倍でした。

本番に必要なのは数百倍の規模

想定されている有人火星探査の構想では、帰還用ロケットに必要な酸素を確保するため、MOXIEより大幅に大きな装置が必要になります。目安として、1時間あたり数キログラムの酸素を生産できる規模が検討されています。乗組員より1つ前の打ち上げの機会、つまり約26か月前に装置を送り込み、到着までに酸素をためておく構想です。作った酸素を液体にしてためる設備も要ります。

MOXIEは探査車の限られた電力で動くため、1回ごとに温めて運転し、止めて冷ます使い方でした。地上の試験からは、性能が少しずつ下がる主な原因はこの加熱と冷却のくり返しで、熱によるひずみが関わっているとみられています。連続で動かす本番の装置では、加熱と冷却の回数そのものは少なくなります。代わりに、数千時間の連続運転に耐えられるかを確かめる必要がありますが、探査車の電力では試せないため、地上の試験に委ねられています。


将来への接続②|持ち帰る方法が決まっていない試料

パーサヴィアランスが集めた試料は、NASAとESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星サンプルリターン計画で、地球へ運ばれる予定でした。別の探査機で試料管を回収して火星から打ち上げ、軌道上で受け取って地球へ運ぶという、何段階もの構想です。

その備えとして、パーサヴィアランスは2022年12月から2023年1月にかけて、スリー・フォークスと呼ばれる場所の地面に10本の管を置きました。パーサヴィアランス自身が試料を届けられなくなったときのための予備です。2025年7月の時点で使われた管は33本で、地面に置いた10本以外の23本は、車体に積んだままです。

ところが、計画は費用の増大などを理由に見直しが続きました。NASAは2025年に公表した2026会計年度の予算要求で、火星サンプルリターン計画を終了する方針を示しています。その後の予算措置を踏まえても、試料を地球へ持ち帰る具体的な方法や実施時期については、最新の公式発表に基づいて確認する必要があります。

管は、10年を大きく超えて中身を守ることを前提に作られています。回収の手段が決まるまで、試料は火星の上で封じられたまま待つことになります。


理解のまとめ

  • 任務:パーサヴィアランスは、火星の上で生命の痕跡の候補を探して試料を採り、最終的な判断は地球の実験室で行う前提で設計された探査車
  • 試料管:地球の有機物を指紋1つぶんの約300分の1までに抑え、ウィットネス管で持ち込んだ汚れも記録する。見つかったものが火星由来だと言えるようにするためのしくみ
  • 成果:チェヤバ・フォールズの試料は、生命の痕跡の可能性がある候補。白黒をつけるには、地球での分析が必要
  • もう一つの任務:MOXIEは、火星の二酸化炭素から酸素を作れることを、実際の火星の環境で示した。人が帰るためのロケットには、数百倍の規模が必要になる

パーサヴィアランスの仕事は、生命の痕跡を探すだけでは終わりません。地球で確かめられる形で、証拠を封じて残すところまでが任務なのです。

夜空で赤く光る火星を見つけたら、その小さな点の上では今も、封じられた試料管が地球へ運ばれる日を待っています。

参考文献

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この記事を書いた人

夜空のしくみを物理からやさしく解説する天文メディア。執筆者の専門は電気化学で、国立天文台やNASAなどの資料を確かめながら書いています。

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