火星とは?|「小さすぎた」ことが運命を決めた、地球の兄弟星

夜空を見上げると、他の星々とは明らかに違う、血のように赤く輝く星を見つけることがあります。太陽系で4番目の惑星、「火星」です。

古くからその赤さは戦火を連想させ、ローマ神話の軍神(マーズ)の名で恐れられてきました。しかし現代の科学が明らかにした素顔は、燃え盛る地獄ではありません。平均気温マイナス60℃、乾ききった「極寒の砂漠」です。

かつて火星には、地球のような青い海があったと考えられています。ではなぜ、地球の兄弟のような星が、これほど干からびてしまったのでしょうか。

答えを一言でまとめると、「小さすぎたから」です。この記事では、火星の基本データを押さえたうえで、”小ささ”という一つの原因が、磁場・大気・水・巨大な山という一見バラバラな特徴をどう決定づけているのかをたどっていきます。

The first true-colour image generated using the OSIRIS orange (red), green and blue colour filters. The image was acquired on 24 February 2007 at 19:28 CET from a distance of about 240 000 km; image resolution is about 5 km/pixel.
Image Credit: ESA & MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/RSSD/INTA/UPM/DASP/IDA
目次

火星とはどんな惑星か

火星は、地球のすぐ外側を回る「岩石惑星」です。

地球の約半分の大きさしかありませんが、1日の長さ(自転周期)は地球とほぼ同じで、傾いた自転軸を持つため四季もあります。太陽系の中で、地球の次に生命が存在した可能性が高いとされ、人類が最も集中的に探査機を送り込んでいる「最前線の惑星」です。

基本データ:地球とのスケール比較

項目火星のデータ地球との比較・スケール感
半径約 3,389 km地球の約半分(地球と月の中間くらいの大きさ)
質量地球の約 10分の1地球に比べてかなり軽く、内部の熱が逃げやすい
表面重力地球の約 0.38倍体重60kgの人が立つと、約23kgに感じる軽さ
自転周期 (1日)約 24時間37分地球の1日とほぼ同じ長さで回転している
公転周期 (1年)約 687日太陽から遠く、地球の約2倍かけて1周する
平均温度約 マイナス60℃大気が薄く保温できないため、極寒に晒される

火星が地球と違う惑星になった理由

約46億年前、火星は地球と同じように生まれ、誕生から数億年の間は厚い大気に包まれ、穏やかな気候と液体の海を持っていたと考えられています。現在の火星表面にも、かつて水が流れていた「川底の跡」や「湖の跡」が無数に残されています。

その青い時代は長く続きませんでした。理由は、火星が地球よりも太陽から遠かったことに加えて、何より「小さすぎた」ことです。

小さな星は、大きな星よりも早く冷えます。お茶をたっぷり入れたポットより、小さな湯呑みの方が先に冷めるのと同じ理屈です。地球の約10分の1しか質量のない火星は、内部の熱を宇宙空間へ早く逃がしすぎてしまいました。

ここから、火星の主要な特徴がすべて連鎖的に説明できます。

なぜ磁場を失ったのか

地球の中心にはドロドロに溶けた鉄のコアがあり、その対流が強力な磁場(バリア)を作り出し、太陽風から大気を守っています。

火星は小さすぎたために内部の熱が早く逃げ、中心の鉄のコアが冷えて対流が止まりました。その結果、磁場という見えないバリアを失ってしまったのです。

なぜ大気と水を失ったのか

バリアを失った火星は、太陽から吹き付ける強烈な太陽風に直接さらされ、数億年かけて分厚い大気と海の水蒸気を宇宙空間へ吹き飛ばされてしまいました。現在の火星の大気は地球のわずか160分の1の薄さで、そのほとんどが二酸化炭素です。

このプロセスを、探査機「MAVEN」は大気が実際に太陽風によって剥ぎ取られている証拠として捉えました。

地表の鉄分は、かつて存在した水や酸化的な環境の影響で酸化鉄へと変化しました。夜空で火星が赤く見えるのは、火星全体が強烈に錆びついているからなのです。

なぜ太陽系最大の山ができたのか

火星には標高約22km、エベレストの約3倍にもなる太陽系最大の火山「オリンポス山」があります。

これも「小ささ」の裏返しです。火星は重力が弱く、地球のようなプレートの移動(大陸移動)もほとんど起きません。同じ場所でマグマが噴出し続けた結果、地球なら山脈として分散するはずのマグマが一点に積み上がり、桁外れの巨大な山に成長できたのです。

気候と四季

自転軸の傾きが地球に似ているため、火星にも四季があります。ただし公転周期が地球の約2倍(687日)あるため、一つひとつの季節が地球よりずっと長く続きます。

火星の内部は完全には冷えていなかった

「小さすぎて冷え切った星」というのが火星の定説でしたが、探査機「インサイト」が捉えた地震波(マーズクエイク)の解析により、火星の中心には今も「巨大な液体のコア」が眠っていることがわかりました。

つまり火星は、磁場を生み出すほどの対流は止まってしまったものの、芯まで完全に固まりきったわけではなかったのです。小さな星の”老い方”は、単純な一本道ではないことを、この発見は教えてくれます。

衛星とリング:いずれ砕け散る「いびつな月」

火星には「フォボス」と「ダイモス」という2つの小さな衛星があります。地球の丸い月とは違い、どちらも直径数十kmの、ジャガイモのような「いびつな形」をしており、捕獲小惑星説と巨大衝突説の両方が研究されています。

内側を回るフォボスは少しずつ火星に引き寄せられており、数千万年後には潮汐力で引き裂かれ、火星の周りに土星のような「小さなリング」を作ると予測されています。

探査ミッション:生命の痕跡を探す

人類はこれまで、数多くの探査機を火星へ送り込んできました。日本初の火星探査機「のぞみ」は太陽フレアの影響で軌道投入を断念するという苦い経験もありましたが、その後も探査は続いています。

現在も「キュリオシティ」や「パーサヴィアランス」といった探査車が、かつて湖だったクレーターの底を走り回り、太古の微生物の痕跡を探し続けています。空を飛ぶ小型ヘリコプター「インジェニュイティ」や、火星の薄い大気から酸素を作る実験も進んでいます。

2030年代以降には、人類が火星の土を踏む計画も進んでおり、火星は「地球というゆりかご」を飛び出すための最初のテストグラウンドとされています。

火星が教えてくれること

火星は、ただの赤い砂漠ではありません。

「もし地球がもっと小さかったら」——星が生命を維持し続けるためには、太陽からの距離だけでなく、星自身のサイズという「見えない条件」がいかに重要かを、身をもって教えてくれる星です。

今夜の視点(まとめ)

  • すべての運命は「小ささ」から始まった(磁場を失ったのも、大気と水を失ったのも、巨大な山ができたのも同じ原因)
  • 赤い色の正体は「サビ」(地表の鉄分が酸化したもの)
  • 内部はまだ完全には冷えていない(地震波が見つけた「巨大な液体のコア」)

次に夜空で赤く輝く火星を見つけたら、かつて波が打ち寄せる青い海を持ちながら、小さすぎるがゆえに内部のエンジンが弱っていった「錆びついた大地」を想像してみてください。その赤い光は、地球の環境がいかに絶妙なバランスの上に成り立っているかを教えてくれる、逆説的なメッセージなのです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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