高萩市衛星通信記念公園の星空観測条件

茨城県高萩市石滝の高萩市衛星通信記念公園(通称・さくら宇宙公園)は、直径32mのパラボラアンテナが2基そびえる公園です。常磐自動車道の高萩ICから車でおよそ15分。もとは日本で初めてテレビの衛星中継を受信した施設で、今はこのアンテナを国立天文台茨城観測局と茨城大学が電波望遠鏡として使っています。電波で宇宙を観測する装置の足元に立って、肉眼の星空を見上げる場所です。

この記事は、2026年4月中旬の夜に、この場所の観測条件を実地で確認した記録です。観測地の条件は年月で変わります。以下はすべて、この時点で確認した内容です。

オリオン座やシリウスが入った、茨城県の高萩市で撮影した写真
目次

この夜の条件

この夜は新月に近く、空に月はありませんでした。西の低い空には、沈みかけのオリオン座と、その左下のシリウスが見えていました。冬の代表的な星たちが、春の宵にぎりぎり残っている時期です。

月がないことは、観測地の評価としてはかなり有利にはたらきます。満月に近い夜なら、どれだけ空の暗い場所へ行っても、月明かりが空全体を白く持ち上げてしまうからです。逆に言えば、このあと「頭上は暗かった」と書くとき、そこには月のない条件が効いています。同じ場所へ月齢13の夜に行けば、見え方は変わるでしょう。

駐車場 ― 台数を気にしなくていい

駐車場は広く、舗装されています。何台停まっているかを気にして入口で迷う、ということはありませんでした。夜に着いても、空いた区画を探すより先に、どこに停めれば見やすいかを選べる余裕があります。

空の開け方 ― どの方角に、何があるか

公園そのものが広く、頭上は大きく開けています。そのうえで、方角ごとに条件が分かれます。

  • :市街地の方向で、明るい方角です。詳しくは次の項で書きます
  • 西から南西:低い空まで開けていて、この夜はオリオン座とシリウスが沈んでいくのが見えました
  • アンテナのある方向:直径32mと大きいのですが、視界を塞ぎません。園内が広く、アンテナから十分に離れて立てるからです

大きな建造物がそばにあると、ふつうは空をどこか削られます。ここはその心配が要りませんでした。アンテナは景色として空の端にあるだけで、頭上を横切ることはありません。

光害は北の低い空だけ ― 約10度上げれば抜ける

明るさを感じたのは北でした。市街地の方向です。ただし、明るいのは低い空に限られていました。少し顔を上げて、地平線から10度ほど視線を持ち上げると、その明るさは気にならなくなります。

なぜ低い空だけが明るいのでしょうか。

夜空が明るくなる現象を光害と呼びますが、その正体は、地上の照明が空へ漏れ、大気中の分子や塵に散乱されて戻ってくる光です。散乱された光は空をうっすら明るくします。そして、いちばん強く出るのは光源のある方角の、低い空です。地平線に近いほど、視線が通り抜ける大気の層は厚くなります。厚い大気を長く通るぶん、途中で散乱された光を多く拾ってしまうのです。

視線を上へ振ると、この関係が逆に働きます。仰角を上げるほど、視線が抜ける大気の路程は短くなり、拾う散乱光は減ります。だから、頭上に近いほど空は暗くなります。「約10度上げれば抜ける」という体感は、この大気の厚みの違いから来ています。

結論として、北の低い空を使う観測には向きません。ただし、頭上から天頂にかけては暗さが保たれます。低空の対象を狙うのでなければ、この光害は実用上ほとんど問題になりませんでした。

よかったところ ― 広くて、自分の場所を選べる

この場所のいちばんの長所は、広さです。

観測する場所を自分で選べます。北の明かりを木や車で背にする位置、頭上がいちばん開ける位置、望遠鏡を据えて動かさずに済む平らな位置。広いと、そのどれもが選べます。狭いスポットでは、空いている一箇所に立つしかありません。ここは違いました。

しかも、整備された公園でありながら、頭上はしっかり暗い。アンテナに視界を邪魔されることもない。設備の整った場所で、暗い頭上を確保できるというのは、両立しにくい条件です。

困ったところ ― 短所というより、公園ゆえの二点

正直に書くと、この夜、大きく困ったことはありませんでした。ただ、公園という性格から、行く前に押さえておくべき点が二つあります。どちらも準備で解決できます。

一つ目は、地面が土であること。ベンチのような座る設備は当てにできません。地面に直に座れば、土は冷たく、湿気も伝わってきます。ここでは断熱シートが前提になります(持ち物の項で後述します)。同じ観測場所でも、ベンチのある展望台なら断熱シートは要りません。福井の「世久見展望台の星空観測条件」では実際に使わずに済みました。持ち物は、場所の設備で変わります。

二つ目は、他の観測者がいること。この夜も、望遠鏡を出して観測している人がいました。完全な無人ではありません。これは安心でもありますが、自分の光で人の観測を邪魔しない配慮が要ります。白色のライトは使えません。赤色ライトが必須になります。

トイレ・安全面

トイレがあります。これは滞在時間の設計に直結する長所です。朝まで粘るタイプの観測でも、着く前に済ませておく必要がありません。トイレのない展望台とは、この一点で使い方がまるで変わります。

安全面では、まず完全な無人ではないことを挙げておきます。夜でも散歩している人がいる公園です。人目があるぶん、ひとりで山道の奥に入るような不安はありません。ただし裏を返せば、静寂と完全な孤独を求める人には向きません。

防寒も忘れずに。4月中旬の夜はまだ冷えました。とくに土の地面からの底冷えは、立っているときより座ったときにこたえます。

持ち物 ― この場所で効いたもの

この夜に効いた装備を、理由とともに挙げます。

  • 断熱シート ―― この場所では必需品です。地面が土で、座る設備がありません。敷かずに座ると、体温が地面に逃げ、湿気も伝わります。ベンチのある場所なら要りませんが、ここでは要ります
  • 赤色ライト ―― これも必需品です。理由は二つあります。一つは、望遠鏡を出している他の観測者への配慮。もう一つは、自分自身のため。暗い場所で星を見ていると、目は時間をかけて暗さに慣れていきます。暗順応と呼ばれる働きで、網膜の中で光を受け取る物質が作り直されて感度が上がります。この蓄積は、白色の光を一瞬浴びるだけで大きく巻き戻ります。赤い光なら、その巻き戻りをかなり抑えられます。仕組みは「天体観測で赤いライトを使う理由」で詳しく書いています

今回、持って行って無駄になったものは、特にありませんでした。

どんな人に向いている場所か

向いているのは、望遠鏡を据えてじっくり見たい人。広くて平らで、トイレもあり、場所を選べます。腰を据える観測と相性がいい場所です。整備された環境で見たい人、頭上の暗さを確保したい人にも向きます。

向いていないのは、北の低い空にある対象を狙いたいとき。ここは低空の光害があります。そして、完全な静寂を求めるとき。散歩する人や他の観測者がいる公園なので、その使い方とは相性が良くありません。

広い場所に自分の一角を決めて、頭上の空をゆっくり見上げる。この場所は、その使い方にいちばん向いています。


北の低い空には市街の明かりがあり、すぐそばには宇宙へ向いた32mのアンテナが立っていました。それでも、少し顔を上げれば、月のない春の空が頭の上に広がっていました。

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この記事を書いた人

「深夜の星空研究室」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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