光害とは?|星が消えるのではなく、夜空が明るくなる仕組み

都会のマンションのベランダから夜空を見上げると、見える星は数えるほどしかありません。ところが、車で山あいの暗い場所まで足を延ばすと、同じ夜に、降ってきそうなほどの星がひろがっています。空も、星も、同じもののはずです。それなのに、なぜこれほど見え方が違うのでしょうか。

星の数が、街と山とで入れ替わるわけではありません。変わっているのは、星ではなく夜空そのものの明るさです。この記事では、都会の空から星を消してしまう光害という現象を、数式を使わずに解説します。仕組みがわかると、空の明るさが「どれだけ星が埋もれているか」の目盛りとして読めるようになります。今夜、ベランダで数個の星しか見えなくても、その意味が変わって見えるはずです。

夜間に日本列島を宇宙から見たときの明るさ
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
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星は減っていない ― 明るくなっているのは「空」

暗い場所の夜空を思い浮かべると、星と星のあいだは黒々としています。一方、街なかで見上げる夜空は、どこか灰色がかって、ぼんやり明るいはずです。この、夜空そのものが暗くなりきらない状態が光害です。光害とは、地上の照明によって夜空が明るくなり、星が見えにくくなる状態のことをいいます。

大事なのは、街でも星が消えてなくなったわけではない、ということ。シリウスのように明るい星は、都会でもちゃんと見えます。見えなくなるのは、もともと淡い光の星です。空の背景が明るいと、弱い星の光がそこに溶けてしまうのです。つまり問題は星の側ではなく、星がのっている空の側で起きています。

光害の正体 ― 地上の光が、空に戻ってくる

では、なぜ地上の照明が「夜空」を明るくするのでしょうか。照明は地面や手元を照らしているだけのように思えます。その答えは、光の漏れと、大気による散乱の二段構えになっています。

光は上にも漏れている

街灯、看板、コンビニ、家々の窓。地上にはたくさんの照明があります。その多くは足元や手元を照らすためのものですが、光の一部は上へ、つまり空へ向かって漏れています。かさのない裸電球や、光を上向きにこぼす街灯を思い浮かべると、想像しやすいでしょう。街全体で見れば、膨大な量の光が夜空へ逃げているのです。さらに、地面や建物に当たった光の一部も反射して空へ向かい、光害に加わります。

大気が光を散乱して返す

空へ逃げた光の全てが、そのまま宇宙へ抜けていくわけではありません。地球の大気には、空気の分子や、細かな塵、水滴が漂っています。上へ向かった光はこれらに次々とぶつかり、進む向きを変えて四方へ散っていきます。これが散乱です。散乱とは、光が空気の分子や塵に当たって向きを変え、四方へ散る現象のことをいいます。

散らばった光の一部は、地上の私たちのほうへ戻ってきます。街じゅうの照明から漏れた光が大気で散り、夜空全体をうっすら照らす。この、散乱した光で夜空が面として明るくなることをスカイグローと呼びます。星を隠しているのは、どこか一点のまぶしい光ではありません。空一面に広がった、この淡い明るさなのです。

低い空ほど明るいのはなぜか

光害には、方角と高さのくせがあります。街のある方向の、低い空ほど明るくなるのです。理由は、視線が通り抜ける大気の厚みにあります。地平線に近い低い空を見ると、視線は大気の中を長い距離通ります。そのぶん、散乱された人工光を目に拾いやすくなります。さらに、遠くの街から届く光も地平線付近を明るくします。逆に、頭の真上に近い空は、大気を最短で突き抜けるので、拾う散乱光が少なく、暗いまま保たれます。

暗い観測地でも「北の低い空だけが明るい」といったことが起きるのは、この大気の厚みの違いによるものです。

なぜ星が「消えて」見えるのか ― コントラストの話

ここで、最初の疑問に戻りましょう。星の光の強さは、街でも山でも変わりません。それでも街で星が見えないのは、星が暗くなったからではなく、背景が明るくなったからです。見えるかどうかを決めているのは、星の明るさそのものではなく、星と背景の明るさの差、つまりコントラストなのです。

同じことは、昼間にも起きています。昼の空にも星はありますが、私たちには見えません。太陽の光が大気に散乱して空全体が青く明るく輝き、星の光がそこに埋もれてしまうからです。光害でおきているのは、これの小さな版といえます。街の明かりが、夜空にささやかな「昼」をつくり出しているのです。

暗い映画館を思い浮かべても腹落ちします。館内が真っ暗なときは、スクリーンのわずかな明かりまではっきり見えます。ところが、上映が終わって照明がつくと、そのスクリーンは急に見えづらくなります。スクリーンが暗くなったわけではありません。まわりが明るくなって、差が消えただけです。街で淡い星が見えなくなるのも、これとまったく同じ理屈。真っ先に埋もれるのが、天の川のような淡くひろがった光です。

空の明るさは、星の埋もれ具合の目盛り

仕組みがわかると、暗い場所へ行くと星が「増える」という感覚の正体も見えてきます。星が増えたのではありません。夜空の背景が暗くなり、それまで埋もれていた淡い星が浮かび上がってきただけなのです。ベランダで見えるわずか数個の星も、山で降るように見える星も、届いている光は同じもの。違うのは、その光がのる背景の暗さだけです。

この見方は、照明の工夫にもつながります。光を上へ漏らさない笠つきの照明や、必要以上に青白い光を避けた暖色系の明かりを選ぶことは、夜空への影響を抑える方法のひとつです。光害を減らすとは、星を明るくすることではなく、星がのる空を暗く戻すこと。空の側を整える話なのです。

空を暗く保つのが「空の側」の工夫なら、暗さに目を慣らすのは「目の側」の準備です。実際に暗い場所へ出かけるなら、目が暗さに慣れていく仕組みを味方につけると、見える星がさらに増えます。

今夜、もし数個しか星が見えなくても、それは星が少ないからではありません。空の背景が、少しだけ明るいだけ。光害の仕組みを知った目には、その空の明るさが、いまどれだけの星がそこに埋もれているかを示す目盛りとして映るはずです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空研究室」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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