金星の地表温度は約460℃です。これは、太陽により近い水星の最高温度(約430℃)よりも高い数値です。なぜ金星は、水星より太陽から遠いにもかかわらず、460℃にもなるのでしょうか。太陽からの距離だけでは説明できないこの高温を生み出したのが「暴走温室効果」という現象です。
この記事では、暴走温室効果を動かしている「正のフィードバック」という物理の仕組みを中心に見ていきます。

温室効果と暴走温室効果の違い
まず整理しておきたいのは、温室効果自体は特別な現象ではないということです。惑星が大気を持てば、地表から出る熱の一部を大気が吸収し、宇宙への放出を遅らせます。これが温室効果で、地球も金星も同じ物理法則の上に成り立っています。地球の平均気温が氷点下ではなく15℃程度に保たれているのも、大気による適度な温室効果のおかげです。
問題は、温室効果に「歯止め」が利くかどうかです。
水蒸気が引き起こす正のフィードバック
暴走温室効果の中心にあるのは、水蒸気という強力な温室効果ガスです。
太陽に近い金星では、かつて存在したとされる海の水が温められ、大量の水蒸気として大気中に放出されました。水蒸気は非常に強力な温室効果ガスです。気温が上がるほど、空気中に存在できる水蒸気の量(飽和水蒸気量)が増えるため、水蒸気がさらに増えます。この「原因が結果を強め、結果がさらに原因を強める」循環を、物理学では正のフィードバックと呼びます。
地球のように水蒸気の量に上限がある環境では、このフィードバックは途中で頭打ちになります。しかし金星では、気温が上昇するほど蒸発が進み、蒸発によってさらに気温が上がる循環が続きました。結果、海が完全に失われるまで暴走温室状態が続いたと考えられています。これが「暴走」と呼ばれる理由です。

水素は宇宙へ、二酸化炭素は大気に残った
大気上層まで運ばれた水蒸気は、太陽からの紫外線を受けて水素と酸素に分解されます(光解離)。軽い水素は重力を振り切って宇宙空間へ逃げ出し、岩石との酸化反応で取り込まれたと考えられています。
液体の海が失われたことで、金星は二酸化炭素を岩石として閉じ込める経路(炭素の循環)を失いました。行き場をなくした二酸化炭素は大気中に残り続け、現在の分厚い大気を形づくることになります。この大気の重さそのものについては、別記事で詳しく扱っています。

地球との違いはハビタブルゾーンだった
金星と地球は、大きさも質量もよく似た惑星です。両者を分けたのは、太陽からの距離でした。水が液体のままでいられる範囲を「ハビタブルゾーン」と呼びますが、金星はこの範囲からわずかに外れた位置にあります。受け取る熱がわずかに多いだけで、正のフィードバックの引き金が引かれてしまうのです。

だから何がわかったか
暴走温室効果とは、温室効果ガスが増える一方的な悪循環に、惑星の環境が飲み込まれてしまう現象です。金星の460℃という高温は、太陽からの距離がわずかに近かったことをきっかけに、水蒸気による正のフィードバックが歯止めなく進んだ結果だとわかります。

参考文献