金星探査機「あかつき」とは?|スーパーローテーションを解いた姿勢制御の技術

「あかつき」は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2010年5月21日に打ち上げた金星探査機です。目的は、金星大気に見られる「スーパーローテーション(超回転)」という現象の解明でした。2015年12月に金星の周回軌道への投入に成功し、2024年に通信が途絶えるまで、8年以上にわたって観測を続けました。

金星探査機あかつき
Image Credit: JAXA
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なぜスーパーローテーションの解明が必要だったのか

金星の自転は非常に遅く、1回転に約243日かかります。ところが金星を覆う雲は、わずか4日ほどで金星を1周しています。惑星の自転よりも大気の動きの方がはるかに速いこの現象が、スーパーローテーションです。

なぜ自転よりも速く大気が動けるのか、その駆動源は長年の謎でした。この謎を解くことは、金星という一惑星の理解にとどまりません。大気がどのように運動エネルギーを獲得し、維持するのかという問題は、地球を含む惑星大気全般の力学に関わる普遍的なテーマだからです。

技術的挑戦|メインエンジンを失った状態での軌道投入

あかつきの観測は、打ち上げから5年以上遅れて始まりました。2010年12月、金星周回軌道への投入を行うメインエンジン(軌道制御エンジン、OME)の燃焼中に、燃料系統のバルブが結晶物で閉塞するトラブルが発生し、燃焼室が異常高温になってセラミックス製の噴射ノズルが破損しました。この結果、あかつきは金星を通過し、太陽を周回する軌道に投入されることになりました。

メインエンジンは修復不能でしたが、機体には姿勢制御用の小型スラスタ(RCS)が残されていました。RCSは本来、機体の向きをわずかに調整するためのもので、軌道を変えるほどの推力は想定されていません。JAXAのチームは、次に金星に接近できる2015年12月まで機体を待機させ、RCSを使った軌道投入計画を検証しました。

2015年12月7日、あかつきはRCSを約20分間にわたって連続噴射し、金星の重力に捕捉される軌道への投入に成功しました。通常は数秒単位でしか使われないスラスタを長時間噴射させるという、設計時点では想定されていなかった運用でした。投入された軌道は、当初計画よりも金星から遠い楕円軌道でしたが、観測目的を達成するには十分な軌道でした。

科学的意義|熱潮汐波が動かす大気

金星に到着したあかつきは、紫外線・赤外線など複数の波長のカメラを使い、金星大気を高度ごとに観測しました。その結果、スーパーローテーションを維持する重要な要因の一つが「熱潮汐波」であることを明らかにしました。太陽に温められた大気が生む周期的な波が、雲の層に運動量を運び、自転よりも速い大気循環を支えているという仕組みです。

このほかにも、あかつきは太陽系最大級の定常重力波(大気の山岳波)を発見し、気象予測に使われる「データ同化」という手法を初めて金星大気研究に適用するなど、複数の成果を残しました。これらの成果は、多くの学術論文として発表されています。

将来への接続

あかつきは2024年4月から5月にかけて通信が途絶え、復旧作業が続けられましたが、2025年9月18日にJAXAはミッションの終了を発表しました。設計時に想定されていた運用期間は4.5年でしたが、実際には軌道投入前の待機期間を含めて約15年にわたり運用されました。

あかつきが金星周回軌道上で残したデータと知見は、2030年代に打ち上げが予定されているESAの「EnVision」やNASAの「DAVINCI」といった次世代ミッションに引き継がれ、金星研究の基盤として活用されていきます。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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