「EnVision」は、欧州宇宙機関(ESA)が主導し、NASAも観測機器の一部を提供する金星探査ミッションです。2031年11月に、フランス領ギアナのクールー宇宙基地からアリアン64ロケットで打ち上げられる予定です。目的は、金星の大気・地表・内部構造を、これまでにない精度でまとめて調べることです。

なぜ新しい探査機が必要なのか

金星は分厚い雲に覆われているため、可視光のカメラでは地表を観測できません。1990年代のNASAマゼラン探査機がレーダーによって初めて金星全体の地形図を作りましたが、当時の技術では捉えられる地形の細かさに限界がありました。
金星と地球は、大きさも質量もよく似た「双子」のような惑星でありながら、地表環境はまったく異なる方向へ進みました。この分岐がいつ、どのように起きたのかを解明するには、地形・大気・内部構造を個別にではなく、同時に調べる必要があります。EnVisionは、この3つを1機の探査機でまとめて観測できるよう設計されています。
技術的挑戦|雲の下と地下をのぞくレーダー
EnVisionの中心的な観測機器は、NASA/JPLが提供する「VenSAR」という、S帯(Sバンド)の電波を使うレーダーです。VenSARは地表に電波を照射し、その反射を捉えることで、雲を透過して地形を描き出します。マゼラン探査機よりも高い分解能での地形マッピングが目標とされています。
さらに、地下探査用の「サブサーフェスレーダーサウンダー(SRS)」は、地表からおよそ1kmの深さまで電波を届かせ、地下構造を探ります。分厚い大気による電波の減衰や、地表の高温環境の中でこれらの機器を正確に動作させ続けることが、開発上の大きな技術的課題となっています。

科学的意義|「今も生きている星か」を確かめる
EnVisionにはレーダーのほかに、紫外・赤外線を観測する3台の分光計「VenSpec-M」「VenSpec-U」「VenSpec-H」が搭載されます。これらは大気中の微量ガス(火山活動に伴うガスを含む)や、地表の岩石組成をマッピングします。もし現在も活発な火山活動があれば、大気中のガス濃度の変化としてとらえられる可能性があります。
また、探査機との通信電波を使って金星の重力場を精密に測定する「電波科学実験(RSE)」も行われます。重力場のわずかな偏りから、地殻やマントル、コアの内部構造を推定することができます。これらの観測を組み合わせることで、EnVisionは金星が地質学的に「今も活動している星」なのか「すでに活動を終えた星」なのかを判定することを目指しています。

将来への接続
EnVisionの開発は、ESAと衛星メーカーのタレス・アレニア・スペース社との間で契約が結ばれ、本格的な製造・開発フェーズへの正式な移行が2026年6月に見込まれています。搭載機器のひとつVenSARを担当するNASA/JPLの参加についても、計画通り継続されることが確認されました。
2031年の打ち上げが実現すれば、EnVisionは同時期に計画されているNASAの「DAVINCI」(大気を降下しながら観測する探査機)と合わせて、金星の全体像を立体的に描き出す次世代ミッションの一つとなります。

参考文献