夜空を横切る光といえば、まず流れ星が思い浮かびます。ふっと現れて、1秒もたたないうちに消えていく光です。
それとは別に、昔から「ほうき星」と呼ばれてきた天体があります。彗星です。
彗星は、氷やチリを含む小さな天体です。太陽に近づくと、表面の物質がガスやチリとなって放出され、核のまわりにコマができ、さらに太陽と反対側へ長い尾が伸びます。
写真で見ると、勢いよく飛んでいるように見えるかもしれません。ところが実際に夜空で見ても、彗星がその場から動いているようにはほとんど感じられません。
一瞬で消える流れ星と、何日も何週間も見える彗星。同じように空を飾りながら、なぜ見え方がこれほど違うのでしょうか。
そして、あの長い尾は何でできていて、なぜ太陽と反対の方向を向くのでしょうか。

彗星とは|太陽に近づくと尾を伸ばす、氷とチリの小天体
彗星とは、氷とチリでできた小さな天体が、太陽に近づいて尾を伸ばしたものです。
尾を引いた姿ばかりが知られていますが、本体はごく小さな天体です。この本体を核と呼びます。大きさは数百メートルから十数キロほど。よく知られたハレー彗星でも、およそ15km×8kmしかありません。街ひとつ分ほどの氷の塊が、夜空いっぱいの尾を伸ばしているわけです。
その核は、意外なことにほとんど光を返しません。ハレー彗星の核が反射する光は、当たった光のわずか3%ほどだとNASAは書いています。氷の天体と聞いて思い浮かぶ白さとはまるで逆で、石炭よりも黒い表面です。氷はチリや黒っぽい有機物と混ざり合い、その層に覆われているからです。
1950年、天文学者のホイップルは、彗星の正体を汚れた雪玉になぞらえました。氷に汚れが混じったもの、という見立てです。ただし探査が進んだいまは、この配合はもう少し汚れ寄りかもしれないと考えられています。
ロゼッタが調べた67P彗星では、放出されたチリとガスの量を比べると、チリのほうが多く、観測からはチリ:ガスがおよそ4:1と見積もられました。「汚れた雪玉」というより、「チリの多い雪玉」と呼んだほうが近いかもしれません。
流れ星とは、まったく別のもの
流れ星は、砂粒ほどのチリが地球の大気に飛び込んで、光りながら燃え尽きる現象です。起きている場所は上空100km前後で、地球の大気の中の出来事にすぎません。だから一瞬で終わります。
彗星は違います。太陽のまわりを回っている天体そのもので、地球からは数千万km以上も離れています。彗星は遠く離れた場所を動いているため、短い時間ではその動きを肉眼で追うのは難しい天体です。数時間程度では星に比べて動きがわかりにくいことが多いものの、夜ごとに位置を比べると、星座の間を少しずつ移動していることがわかります。
一瞬で消える光と、何日も居座る光。距離が2桁も3桁も違えば、見え方もこれだけ変わるのです。
なぜ尾ができるのか|氷が「昇華」してガスとチリを放出するしくみ

では、その小さな氷の塊は、どうやって尾を作るのでしょうか。
鍵になるのが、昇華という変化です。昇華とは、固体が液体にならずに、直接気体に変わることをいいます。身近な例はドライアイスです。溶けて水たまりを作ることなく、白い煙を上げながら小さくなっていきます。
宇宙空間では、氷も同じようにふるまいます。彗星の表面には、地球のような大気圧がありません。そのため、氷は液体の水を経由せず、直接水蒸気になる「昇華」を起こします。つまり、彗星の氷は溶けて水になる段階を飛ばして、いきなりガスになるのです。
とはいえ、太陽から遠いあいだは活動が目立ちません。海王星の外側はマイナス200℃を下回るほど低温で、彗星の表面は比較的静かな状態にあります。変化が始まるのは、太陽に近づく軌道を下りてきてからです。変化が目立って始まる距離は彗星によって違いますが、太陽に近づくにつれて表面の氷や凍ったガスが温められ、少しずつガスを放出するようになります。
噴き出すガスは、表面のチリも一緒に引きはがしていきます。核の重力は非常に弱いため、多くのチリはそのまま宇宙空間へ放出されます。こうして核のまわりに、ガスとチリの雲が広がります。これがコマです。
数kmの核から、惑星より大きなコマへ
コマの大きさは、桁が違います。
NASAによれば、コマは数十万kmに広がることがあり、多くの惑星より大きくなります。地球の直径が約1万3千kmですから、その数十倍です。核そのものは数kmしかないのに、それを包むコマは数十万kmまで広がることがあります。
尾はさらに長く伸びます。数千万km、長いものでは1億kmを超えることもあります。
つまり彗星の壮大さは、本体の大きさではありません。街ひとつ分の氷が、削られながら吐き出したものが引き伸ばされているだけなのです。重さで言えば、そのほとんどは何もない空間に近いほど薄いガスとチリです。
尾はどこを向くのか|進行方向の後ろではなく、太陽の反対側
ここからが、彗星のいちばん誤解されやすいところです。
走る人の髪は後ろになびきます。走る車の煙も後ろに流れます。だから彗星の尾も、進んできた方向の後ろに引きずられている。そう思ってしまいがちです。
ところが違います。彗星の尾は基本的に、太陽から遠ざかる方向へ伸びます。ただし、尾には2種類あり、形が違います。チリの尾は弓なりに曲がり、イオンの尾はよりまっすぐ、太陽と反対の方向へ伸びます。
この事実には、ひとつ面白い結果がついてきます。太陽に近づくとき、尾はたしかに後ろへ流れています。太陽から遠ざかるときには、彗星の進行方向と尾の向きが近づき、尾を前にして飛んでいるように見えることさえあります。自分が伸ばした尾を追いかけるように飛んでいく、という状態になります。
理由は単純です。尾をなびかせているのは、彗星の運動ではないからです。尾を形づくっているのは、太陽から届く光や太陽風です。
たいまつを持って走る場面を思い浮かべてください。風のない場所なら、煙は後ろへ流れます。けれど強い風が吹いていれば、煙はどちらへ走っていようと風下へ流されます。彗星のまわりにも、太陽から吹き続ける風があります。尾の向きを決めているのは、走る速さではなく、この風の向きなのです。
チリの尾とイオンの尾|曲がる尾と、まっすぐな尾

1本目は、チリの尾です。白から黄色っぽい色で、幅広くぼんやり広がります。この色は、チリの粒が太陽の光を反射しているためです。
チリを押しているのは、太陽の光そのものが持つ圧力です。光には、当たったものをごくわずかに押す性質があります。地球の近くで太陽の光が1m²の面を押す力は、重さに直すとおよそ0.5mg。小さな砂粒ひとつほどにすぎません。私たちが日なたに立っても押される感じがしないのは、このためです。
ところが、相手が小さな粒になると事情が変わります。光が押す力は粒が光を受ける面積に比例し、太陽の重力は粒の重さに比例します。粒の大きさを10分の1にすると、光を受ける面積は100分の1になりますが、重さは1000分の1まで減ります。小さい粒ほど、重さのわりに強く押されるわけです。材質にもよりますが、1000分の1mmほどの細かいチリになると、光が押す力は太陽の重力と同じくらいになります。
それでも、チリが外へ押し出される動きはゆっくりしたものです。チリは太陽のまわりを回り続けながら、少しずつ外側へずれていきます。そのあいだに彗星の本体は先へ進んでいくので、早く放たれたチリほど後ろに取り残されます。こうしてチリの尾は、彗星の通り道に沿って弓なりに曲がります。たいまつのたとえで言えば、風があまり強くないときの煙です。風下へ流されながらも、走る人に少しずつ置いていかれて、斜めにたなびきます。
尾が幅広く広がるのは、粒の大きさがそろっていないからです。小さい粒ほど強く外へ押し出され、大きい粒ほど彗星の通り道の近くに残ります。
2本目が、イオンの尾です。青っぽく見えることがあり、細く、まっすぐ伸びます。
こちらの正体は、ガスです。コマのガスは太陽の紫外線を浴びて電気を帯び、イオンと呼ばれる状態になります。イオンになると、太陽から吹き出している電気を帯びた粒の流れ、つまり太陽風に引かれて流されるようになります。太陽風は磁場を伴っていて、イオンはその電磁的な作用を受けながら、太陽風の流れに沿って運ばれていきます。光のように面で押されるのではなく、太陽風に乗せられて連れ去られるのです。そのため、イオンの尾は細く、太陽と反対の方向へ伸びていきます。
太陽風の速さは、地球の近くで秒速300〜800kmほど。秒速数十kmで動く彗星の本体よりはるかに速いので、イオンは取り残される間もなく、太陽と反対の方向へまっすぐ運ばれていきます。チリの尾が曲がり、イオンの尾がまっすぐなのは、この速さの違いによるものです。青く見えることがあるのは、太陽光の反射ではなく、イオン化したガスが出す光によるものです。
同じ核から出たのに、押しているものが違うから、向きも形も分かれます。2本の尾は、その差がそのまま空に描かれたものです。
なお、イオンの尾のふるまいは、太陽風という発想そのものを生みました。1950年代のはじめ、天文学者ビーアマンは、光の圧力だけでは尾の動きを説明できないと考え、太陽から粒子が吹き出しているはずだと予想します。その後の宇宙探査によって、太陽から常に粒子が吹き出していることが確かめられていきました。彗星は、太陽風を映す吹き流しでもあったわけです。
彗星はどこから来るのか|カイパーベルトと、その外側
彗星の多くは、太陽の近くではなく、太陽系の外側にある低温の領域に由来すると考えられています。
彗星は公転周期でふたつに分けられます。境目は200年です。200年より短い周期で戻ってくるものを短周期彗星、長いものを長周期彗星と呼びます。
短周期彗星の多くは、カイパーベルトなど太陽系外縁部に由来すると考えられています。そこにいた氷の天体が、なんらかのきっかけで軌道を乱され、木星などの重力に引き回されながら内側へ入ってきたものです。ロゼッタが訪れた67P彗星は6.5年で太陽を1周しており、この仲間にあたります。
長周期彗星の出どころは、さらに外側です。太陽系をぐるりと包む球状の領域があると考えられていて、オールトの雲と呼ばれています。ここから来る彗星は、1周するのに数百万年、長いものでは3千万年ほどかかるとNASAは説明しています。人類が同じ彗星を2度見ることは、まずありません。
どちらの出どころにも共通することがあります。太陽から遠く、温められてこなかった、という点です。
だから彗星の氷は、太陽系が生まれたころの材料を、凍ったまま抱えている可能性があります。惑星の上では、熱や大気や水によって元の姿がすっかり書き換えられてしまいました。彗星にはそれが起きていません。彗星の水が地球の海とどう違うのかを探査機が調べに行ったのも、この理由からです。
太陽に近づくたびに、彗星は減っていく
ただし、氷を抱えていられる時間には限りがあります。
尾を伸ばすということは、身を削るということです。NASAによれば、ハレー彗星ほどの大きさの彗星は、太陽を1周するたびに表面から1〜3mを失います。何度も太陽の近くを通るうちに、揮発しやすい成分が少しずつ失われていきます。
尽きたあとに待っているのは、静かな引退か、崩壊です。活動をやめて岩のような姿になるものもあれば、ばらばらに割れてしまうものもあります。2013年のアイソン彗星は、太陽に近づいたところで崩れ、期待された明るい姿を見せないまま消えていきました。
では、削り取られたチリはどこへ行くのでしょうか。
散らばったまま、軌道上に残ります。彗星が通った道筋には、目に見えないチリの帯ができあがります。そして地球が毎年その帯を横切るとき、チリが大気に飛び込んで流れ星になります。これが流星群です。ハレー彗星のチリは、5月のみずがめ座η流星群と、10月のオリオン座流星群として、いまも毎年降ってきています。
彗星は、消えるときに空へ置き土産を残していくのです。
明るくなるかどうかは、直前までわからない
大彗星が来ると騒がれながら、ほとんど見えないまま終わる。彗星には、そういうことがしばしば起こります。
原因は、予報の技術ではありません。彗星の明るさには、核がどれだけガスとチリを噴き出すかが大きく関係しています。そしてその量は、表面がどれくらい黒い層に覆われているか、氷がどこに残っているか、核がどう自転しているかといった、外から見えない事情に左右されます。核の中身を見ないまま、噴き出す量を当てにいくことになるわけです。
外れ方は、暗い側にも明るい側にも起こります。2007年には、17Pホームズ彗星が2日ほどのうちに肉眼で見えるまで増光し、コマが太陽の直径に迫る大きさまで広がったと報告されました。観測者にとっては、ほとんど突然の増光でした。
彗星の明るさが読みきれないのは、私たちがまだ核の中を見られていないからです。
まとめ
- 彗星とは、氷とチリでできた小さな天体が、太陽に近づいて尾を伸ばしたものです
- 本体である核は数百メートルから十数キロほどで、表面は石炭より黒く、光をほとんど返しません
- 宇宙空間では氷は液体を飛ばして直接ガスになります。この昇華がガスとチリを噴き出させ、核を包むコマを作ります
- コマは数十万km、尾は数千万kmにも広がります。壮大に見えるのは本体ではなく、削り出されたものの広がりです
- 尾は進行方向の後ろではなく、太陽と反対側に伸びます。太陽から遠ざかるときには、尾が進行方向の前に出ているように見えることもあります
- チリの尾は光の圧力にゆっくり押されながら彗星に取り残されて弓なりに曲がり、イオンの尾は速い太陽風に運ばれてまっすぐ伸びます
- 短周期彗星はカイパーベルトから、長周期彗星はさらに外側のオールトの雲から来ると考えられています
- 太陽に近づくたびに彗星は削られ、残されたチリの帯が流星群になります
彗星の尾は、単純に「進行方向の後ろ」へ伸びているわけではありません。太陽から届く光や太陽風が、彗星から放出された物質を太陽から遠ざけることで、長い尾が形づくられます。
次に彗星を見る機会があれば、尾がどちらを向いているかに注目してみてください。太陽の位置を思い浮かべると、尾が基本的にその反対側へ伸びていることに気づくはずです。
そして流れ星を見たときには、その背景にある彗星にも少しだけ目を向けてみてください。かつて彗星が放出したチリが地球の大気に飛び込み、一瞬の光になっているのかもしれません。
参考文献
- NASA Science|Comets
- NASA Science|Comets Facts
- NASA Science|1P/Halley
- NASA Science|67P/Churyumov-Gerasimenko
- NASA|NASA’s Parker Solar Probe Spies Newly-Discovered Comet NEOWISE
- NASA|Did Comet ISON Survive?
- NASA APOD|Comet Holmes in Outburst
- 天文学辞典(日本天文学会)|彗星
- 天文学辞典(日本天文学会)|尾(彗星の)
- ESA|Rosetta: Comet 67P/Churyumov-Gerasimenko
- ESA|Dust measurements in the coma of comet 67P/Churyumov-Gerasimenko inbound to the Sun
- 天文学辞典(日本天文学会)|放射圧
- 天文学辞典(日本天文学会)|太陽風