夜空を見上げると、星が点々と光っています。その光は目に届き、明るさや色として見えます。ところが同じ星を天文台の装置でとらえると、肉眼で見た姿とはまったく違うものが写ることがあります。可視光ではきれいな一点だったはずの場所に、もやもやとしたガスの雲が広がっていたり、星そのものではなく、その周囲だけが激しく光っていたりします。
同じ天体を見ているはずなのに、なぜこれほど違うのでしょうか。理由は、私たちの目に届いていた光が、その星が出しているもののごく一部でしかなかったからです。そして目に見えないその残りは、テレビのリモコンや病院のレントゲンと、まったく同じ仲間でもあります。この記事では、光と電波と赤外線とX線がなぜ同じものなのかを、数式を使わずに解説します。

見えている光は、届いているもののごく一部
身のまわりを見わたすと、名前も使われ方もばらばらなものが並んでいます。ラジオやスマートフォンが受け取る電波。テレビのリモコンから出る赤外線。日焼けの原因になる紫外線。病院で骨を写すX線。どれも用途が違い、扱われる場所も違います。電波は通信で、赤外線は暖房で、X線は医療で使われています。
けれども物理の立場から見ると、これらは別々のものではありません。目に見える光もふくめて、すべてが電磁波というひとつの現象の、部分ちがいなのです。名前が分かれているのは、性質が根本的に違うからではなく、人間にとっての使い道や感じ方が違うからにすぎません。
では、その電磁波とは何なのでしょうか。
電磁波とは何か ― 電気と磁気の振動が伝わる波
電磁波とは、電気の性質と磁気の性質が変化しながら、空間を波として伝わっていく現象のことをいいます。
電気の変化は磁気の変化をともない、磁気の変化も電気の変化と結びついています。その変化が互いに影響し合いながら、空間を遠くまで伝わっていきます。
糸を張って端を上下に揺らすと、波が向こうへ伝わっていきますね。電磁波では、電気と磁気の変化がそれに似た形で空間を伝わっていく、と考えてください。
大切なのは、この波が伝わるのに物質を必要としないという点です。音は空気などの物質がなければ伝わりません。ところが電磁波は、何もない宇宙空間をそのまま越えてきます。
だからこそ、何百光年も先の星から届いた光を、私たちは地球から受け取ることができるのです。
違いは「波長」だけ
電磁波は、波として伝わります。波である以上、山と谷があります。この波の山から次の山までの距離のことを波長といいます。電波と赤外線と可視光とX線を分けているのは、波長の違いです。ただし、波長が変われば、それに対応して周波数やエネルギーも変わります。
つまり、電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線は、別々の現象ではありません。波長や周波数、エネルギーが違うだけで、すべて同じ電磁波の仲間なのです。波長が長いものを電波、そこから短くなるにつれて赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線と呼び分けています。呼び名が変わっているだけで、根本にある現象は同じです。
速さはどれも同じ
もうひとつ、押さえておきたい共通点があります。波長がどれだけ違っても、真空中を進む速さはすべて同じという点です。その速さは秒速およそ30万キロメートル。いわゆる光速です。電波もX線も、この同じ速さで進みます。ラジオの電波が光より遅い、ということはありません。
ただし、「同じ天体から出た電波と可視光が、必ず同時に出発して同時に届く」という意味ではありません。電波と可視光は、天体の異なる場所や異なる現象から放たれることがあるからです。大切なのは、同じ場所から同じ瞬間に放たれた電磁波なら、真空中では波長に関係なく同じ速さで進むということです。

一列に並べてみる ― 電波からガンマ線まで
波長の長いものから順に並べると、電磁波の全体像が見えてきます。
長い波長を持つ電波から、赤外線、可視光、紫外線、X線、そして最も短い波長のガンマ線まで、電磁波は切れ目なくつながっています。長さの単位のナノメートルは、1ミリメートルの100万分の1です。
| 名前 | 波長のめやす | 身近な例 | 宇宙で主に見えるもの |
|---|---|---|---|
| 電波 | 1ミリメートルより長い | ラジオ、スマートフォン、電子レンジ | 冷たい水素ガス、星の材料になる分子の雲 |
| 赤外線 | 1ミリメートル〜800ナノメートル | テレビのリモコン、暖房器具 | 塵に隠れた星の誕生現場、温度の低い天体 |
| 可視光 | 800〜400ナノメートル | 目に見える光すべて | 星の表面 |
| 紫外線 | 400〜10ナノメートル | 日焼け、殺菌ランプ | 高温の若い星 |
| X線 | 10〜0.01ナノメートル | レントゲン検査 | 数百万度の高温ガス、ブラックホールの周辺 |
| ガンマ線 | 0.01ナノメートルより短い | 放射線治療 | 超新星の残骸、宇宙で最も激しい爆発 |
波長の境目はきっちり決まっているわけではなく、資料によって多少前後します。ここでは目安を示しています。可視光の範囲も、人によって少し違います。
この表を眺めると、右端の列が波長によってきれいに移り変わっていることに気づくはずです。
熱によって光を出している天体では、温度が低いほど長い波長側に、温度が高いほど短い波長側に強く放射する傾向があります。
では、なぜ温度によって光の色や強さが変わるのでしょうか。そのしくみを知るには、「黒体放射」という考え方が手がかりになります。

波長が短いほどエネルギーが大きい
波長には、もうひとつ大切な意味があります。一般に、波長が短い電磁波ほど、1個の光子が持つエネルギーは大きくなります。この性質は、紫外線やX線のふるまいを理解するうえでも重要です。電波や赤外線は、紫外線やX線よりも1個あたりのエネルギーが小さい一方、紫外線やX線のような短い波長の電磁波は、物質の分子や原子に影響を与えることがあります。
紫外線が日焼けを引き起こすのも、その一例です。さらにX線は人体をある程度透過しますが、骨ではより強く吸収されます。その違いを利用することで、病院では骨の画像を撮影することができます。
このように、危険なものと安全なものが別々の種類として存在しているわけではありません。同じ電磁波でも、波長やエネルギーによって物質とのふるまいが変わるのです。
ピアノの鍵盤にたとえる
ここまでの話は、ピアノの鍵盤を思い浮かべると腹に落ちます。
鍵盤の左端は低い音、右端は高い音です。低い音も高い音も、空気の振動という点ではまったく同じもの。違うのは振動の細かさだけですね。それでも私たちは、低い音をゴロゴロした響きとして、高い音を澄んだ響きとして、まるで別のものであるかのように聞き分けています。
電磁波も、これと同じです。左端に波長の長い電波があり、右端に波長の短いガンマ線があります。ずらりと並んだ長い鍵盤。そして人間の目が見えているのは、その鍵盤のうち、まん中あたりのわずか数本分でしかありません。
赤外線は、その数本のすぐ左隣にある鍵。紫外線はすぐ右隣にある鍵。隣り合っているのに、私たちには一方が見えて、一方が見えません。目という装置が、たまたまその狭い範囲だけに合わせて作られているからです。夜空を肉眼で見るという行為は、長大な鍵盤のうち数本だけを聴いていることに近いといえます。
だから天文学は、あらゆる波長で宇宙を見る
天文学が可視光だけで満足しないのは、ここに理由があります。数本の鍵だけを聴いていたのでは、宇宙が奏でている音のほとんどを取りこぼしてしまうからです。
波長ごとに見えるものが違う
同じ天体でも、どの波長で見るかによって、まったく違うものが浮かび上がります。
電波でとらえると、宇宙にただよう冷たい水素ガスが見えてきます。可視光ではほとんど何も写らない領域が、電波では星の材料となるガスで満たされていた、ということが起こります。
赤外線でとらえると、塵の雲に隠れた天体を見つけやすくなります。赤外線は可視光よりも塵に吸収されにくいため、星が生まれつつある場所を調べるのに役立ちます。ただし、非常に濃い塵の雲では、赤外線でも見えにくいことがあります。
可視光で見えるのは、おもに星の表面です。数千度に熱せられた表面が出す光が、ちょうどこの帯にのっています。星の色が温度を示すのも、この帯での話です。
そしてX線でとらえると、数百万度という桁違いに熱いガスが光りはじめます。ブラックホールに落ち込むガスや、銀河の集団を満たす超高温のガスは、X線でなければ姿を見せにくい天体現象です。
つまり、波長を変えることは、レンズを変えることではありません。宇宙の別の層をのぞきこむことなのです。

大気の窓 ― なぜ望遠鏡は宇宙へ行くのか
ところが、ここで地球の側の事情が立ちはだかります。星がさまざまな波長の電磁波を出していても、その全部が地上まで届くわけではないのです。
地球の大気は、電磁波を素通しにはしません。よく通す波長と、ほとんど通さない波長があります。この、大気が電磁波を比較的よく通す限られた波長の範囲を「大気の窓」と呼びます。代表的なのが、可視光と電波の大きな窓です。私たちが目で星を見られるのも、地上に大きな電波望遠鏡を置けるのも、この窓があるからです。
一方で、赤外線にも大気を通り抜けられる波長帯があります。ただし、赤外線は水蒸気などに吸収される波長が多いため、地上から観測できる範囲は限られています。紫外線の多くはオゾンなどに吸収され、X線とガンマ線も大気に強く吸収されるため、地上にはほとんど届きません。
X線望遠鏡が宇宙にあるのは、この理由によります。地上にどれだけ巨大な装置を建てても、X線は大気によってほとんど遮られてしまいます。地表まで届かない以上、望遠鏡のほうが観測できる場所まで出ていくしかないのです。
赤外線でも、同じ事情から宇宙に運ばれた望遠鏡がありますし、電波の中でも波長の短い帯を狙う装置は、水蒸気の少ない乾いた高地に置かれます。
標高5000メートルのアタカマ砂漠に世界有数の電波望遠鏡があるのは、大気による吸収の影響をできるだけ小さくするためです。特に水蒸気は、ミリ波やサブミリ波の観測に大きな影響を与えます。

目に映るのは、ひと握りの帯
電磁波は、電気と磁気の性質が変化しながら空間を伝わる波でした。電波も赤外線も可視光もX線も、その波長や周波数が違うだけで、同じ電磁波の仲間です。
真空中では、これらはすべて同じ光速で進みます。そして波長が短くなるほど、1個の光子が持つエネルギーは大きくなります。熱によって光を出している天体では、温度が高いほど短い波長側に強く放射する傾向があります。一方で、宇宙には熱だけでは説明できないさまざまな電磁波の放射もあります。
さらに地球の大気は、電磁波のすべてを地上まで通してくれるわけではありません。可視光や電波など、限られた波長だけが大気の窓を通り抜けてきます。だから今夜、夜空を見上げて目に映るのは、星が出している電磁波のうち、ほんのひと握りの帯にすぎません。
見えていない残りが存在しないわけではないのです。ただ、目という受信機が、その帯にしか合わせられないだけなのです。そう考えると、肉眼で見る星空の質素さは、見えないものの多さの裏返しでもあります。あの一点の光の向こうで、電波からガンマ線までの長い鍵盤が、今夜も鳴りつづけています。
参考文献
- NASA Science|Tour of the Electromagnetic Spectrum
- NASA Goddard Space Flight Center|Multiwavelength Milky Way
- NASA Chandra X-ray Observatory|About X-ray Astronomy