地球の表面は、十数枚の岩盤(プレート)に分かれ、年に数cmという速さでゆっくりと動いています。この動きが地震や火山を引き起こす一方で、地球内部の熱を外へ逃がし、二酸化炭素を岩石として地下に戻す働きも担っています。
大きさも重力も地球に近い金星には、この持続的なプレートテクトニクスが見られません。この記事では、金星の地殻がなぜ動けないのか、そして近年の観測で見えてきた「部分的な動き」について整理します。

スタグナント・リッドとは何か
金星の表面は、地球のように複数のプレートへ分かれているのではなく、ほぼ一体となった厚いリソスフェア(岩盤)に覆われています。この状態を「スタグナント・リッド(停滞した蓋)」と呼びます。
プレートが沈み込むには、岩盤(リソスフェア)がある程度柔らかく変形できる必要があります。岩石の柔らかさを左右する大きな要因が、含まれる水分です。金星は高温のため水を失い、水を失ったことで岩石が変形しにくくなり、プレートの沈み込みが起こりにくくなったと考えられています。

内部熱はどう放出されるのか
プレートテクトニクスには、惑星内部の熱を宇宙へ逃がすラジエーターのような役割もあります。スタグナント・リッドの状態では、この熱の逃げ道がふさがれてしまいます。
内部にたまり続けた熱は、数億年に一度、全球規模の火山活動として一気に噴き出し、地表の大部分を新しい溶岩で覆い直した可能性があると考えられてきました。これを「全球更新(グローバル・リサーフェシング)」と呼びます。地球が日常的に少しずつ熱を逃がしているのに対し、金星は限界まで熱をため込み、まとめて放出するタイプの惑星だといえます。

コロナに見つかった「部分的な沈み込み」
もっとも、金星の地表がまったく動いていないわけではありません。近年、NASAのマゼラン探査機が1990年代に取得したデータを解析し直した研究で、新しい手がかりが見つかっています。
金星には「コロナ」と呼ばれる、直径数百kmにおよぶ環状の地形が数百個確認されています。ある研究チームが75個のコロナを調べたところ、52個の周囲でマントルの高温物質が沈み込んでいる痕跡が見つかりました。地球のプレートが海溝で沈み込むのとは異なる仕組みですが、コロナの縁で地殻が局所的に内部へ押し込まれ、内部の熱を逃がしている可能性を示す発見です。
つまり金星は、地球のような惑星規模のプレートテクトニクスは持たないものの、コロナという限られた場所でだけ、地球の初期に似た小規模な地殻の動きが起きているかもしれないのです。

だから何がわかったか
金星の地表が動かないのは、水を失って岩盤が硬化し、プレートが沈み込めなくなったためです。この「スタグナント・リッド」の状態が、内部の熱をため込み、数億年おきの全球規模の火山活動を引き起こしたと考えられます。ただし近年の研究で、コロナと呼ばれる限られた地形では部分的な地殻の動きが見つかっており、金星の地質活動は「完全に停止した星」ではなく、「地球とは違うやり方で呼吸している星」に近いことがわかってきています。

参考文献
- NASA’s Magellan Mission Reveals Possible Tectonic Activity on Venus|NASA/JPL
- Coronae on Venus: An Updated Global Database|Gülcher et al., 2025, JGR Planets
- NASA|Venus