海王星の熱収支とは?|太陽から1.6倍遠いのに、天王星と同じ温度の理由

太陽から遠い惑星ほど、冷たくなるはずです。

天王星は太陽から約19天文単位、海王星は約30天文単位のところを回っています。天文単位とは、地球と太陽の平均距離を1とする長さの単位です。海王星は、天王星より約1.6倍も遠いことになります。そのため、海王星に届く太陽の光は、同じ面積あたりで天王星の約4割しかありません。

ところが、ボイジャー2号の観測データから求められた有効温度は、天王星が約59K、海王星も約59Kでした。どちらもマイナス214℃前後です。有効温度とは、惑星が宇宙へ放出する熱の量を、温度に換算したものです。大気のある場所の温度そのものではありません。

太陽から届くエネルギーが大きく違うのに、放出する熱から求めた温度はほとんど同じ。この食い違いを解くには、惑星に入ってくるエネルギーと、宇宙へ出ていくエネルギーを比べる必要があります。

この記事では、熱収支という考え方を使って、海王星が太陽の光だけでは説明できない熱を放出していること、そして天王星との違いがどこにあるのかを見ていきます。

1989年にボイジャー2号がとらえた海王星
Image Credit: NASA/JPL
目次

熱収支とは|入ってくる熱と出ていく熱の帳簿

惑星の温度は、受け取るエネルギーと、宇宙へ放出するエネルギーのバランスに左右されます。この出入りを整理したものが、熱収支です。

  • 熱収支:天体が受け取るエネルギーと、宇宙へ放出するエネルギーの出入りのこと。

惑星に入ってくる主なエネルギー源は、太陽の光です。ただし、届いた光のすべてが惑星に吸収されるわけではありません。一部は雲や大気などで反射され、そのまま宇宙へ戻っていきます。

  • 反射率(アルベド):当たった太陽光のうち、反射される割合。

海王星のボンドアルベドは約0.29です。これは、入ってきた太陽光の約29%が反射され、残りの約71%が吸収されることを意味します。一方、惑星は受け取ったエネルギーを、熱放射として宇宙へ放出しています。冷たい惑星が放出する熱の多くは、目には見えない赤外線です。目に見えなくても、そこにはエネルギーが流れています。理想的な黒体が表面から放出する熱放射の量は、ステファン・ボルツマンの法則で表せます。

  • ステファン・ボルツマンの法則:黒体が単位面積あたりに放出するエネルギーは、絶対温度の4乗に比例するという法則。

絶対温度は、ケルビン(K)という単位で表します。0Kはマイナス273.15℃です。絶対温度が2倍になると、黒体が単位面積あたりに放出するエネルギーは16倍になります。温度が光の色と量を決めるしくみは、恒星にも惑星にも同じように当てはまります。

入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーが等しければ、長い時間で平均した温度は大きく変化しません。熱収支の帳簿で、収入と支出が釣り合っている状態です。

反対に、出ていくエネルギーのほうが多ければ、惑星は内部に蓄えた熱などを失っていることになります。入ってくるエネルギーのほうが多ければ、惑星は熱を蓄えて温まっていきます。

ここで使う有効温度とは、惑星が宇宙へ放出する熱の量を、理想的な黒体の温度に換算したものです。ボイジャー2号の観測データから求められた天王星と海王星の有効温度は、どちらも約59Kでした。

それでは、海王星が太陽から受け取るエネルギーはどれくらいなのでしょうか。まずは、太陽の光だけで決まる温度を計算してみましょう。

太陽の光だけなら何Kになるか|逆2乗の法則とステファン・ボルツマンの法則

まず、海王星が太陽から受け取るエネルギーを見積もってみましょう。

  • 逆2乗の法則:光の強さは、光源からの距離の2乗に反比例して弱まるという法則。

海王星は、太陽から地球までの約30倍の距離にあります。距離が30倍になると、同じ面積に届く太陽光は30×30、つまり約900分の1まで弱まります。

地球の軌道付近では、太陽光の強さは1m²あたり約1,361ワットです。海王星では約1.51ワットまで弱まります。

ただし、この光がすべて海王星に吸収されるわけではありません。海王星のボンドアルベドは約0.29なので、吸収されるのは約71%です。

さらに、太陽光を受け取る面積と、熱を放出する面積にも違いがあります。太陽光を受け止めるのは惑星を太陽側から見た円盤状の面積ですが、熱放射は球全体から起こります。

球の表面積は、同じ半径の円の面積の4倍です。そのため、海王星が吸収する太陽エネルギーを球全体の表面積で平均すると、1m²あたり約0.27ワットになります。

では、これと同じ量のエネルギーを放出するには、何Kの温度が必要でしょうか。

ステファン・ボルツマンの法則を使って換算すると、太陽光だけで決まる海王星の平衡温度は約46.6K、摂氏ではマイナス227℃ほどになります。

ところが、海王星の有効温度は約59.3Kです。太陽光だけで決まる温度より、約13K高いことになります。

この差は、放出するエネルギーの違いとして見ると、さらに大きくなります。黒体の放射エネルギーは絶対温度の4乗に比例するため、温度の比を4乗するとエネルギーの比が求められます。

59.3Kと46.6Kの比から計算すると、海王星が宇宙へ放出する熱エネルギーは、吸収した太陽エネルギーの約2.6倍に相当します。

熱収支を1m²あたりで整理すると、次のようになります。

1m²あたりのエネルギー
吸収する太陽の光約0.27ワット
宇宙へ出ていく熱約0.70ワット
差額(内部から出てくる熱)約0.43ワット

この差額は、海王星の内部から供給される熱に相当すると考えられます。つまり、海王星は吸収した太陽エネルギーの約2.6倍の熱を放出しており、その差を内部熱で補っているのです。

宇宙へ放出する熱を10とすると、太陽光でまかなえるのは約4です。残りの約6は、内部から供給される熱に相当します。

海王星が太陽から遠いのに冷えきっていない理由は、太陽の光だけでは説明できません。それでは、この内部熱はどこから来るのでしょうか。

2.6倍の正体|内部の熱の出どころ

海王星が太陽光だけでは説明できない熱を放出していることがわかりました。では、その熱はどこから来るのでしょうか。

海王星の中心で、太陽のような核融合が起きているわけではありません。海王星は、核融合を長期間維持できるほど大きな質量を持っていないからです。

有力な熱源の一つは、惑星が誕生したときに蓄えた熱の名残だと考えられています。

惑星が生まれたとき、周囲にあったガスや氷、岩石などの材料が重力によって集まりました。材料が落ちてきて衝突すると、運動エネルギーの一部が熱に変わります。こうして蓄えられた熱が、長い時間をかけて宇宙へ放出されていると考えられます。

もう一つの候補は、惑星がゆっくりと収縮することで生じる熱です。内部が少しずつ縮むと、重力によるエネルギーの一部が熱に変わります。このような収縮も、内部熱の供給源になり得ます。

さらに、海王星の内部では、炭素を含む物質からダイヤモンドが生成され、重力によって深い場所へ沈んでいく可能性も考えられています。

2017年には、海王星や天王星の内部に相当する高温・高圧条件をレーザーで再現した実験で、炭化水素からダイヤモンドが生成する過程が確認されました。

ダイヤモンドが内部で生成されて沈んでいくなら、その過程で重力によるエネルギーが熱に変わる可能性があります。ただし、海王星の内部で実際にどれほどダイヤモンドが生成され、それが熱収支にどの程度寄与しているのかは、まだ明らかになっていません。

海王星の内部熱は、誕生時に蓄えられた熱や、ゆっくりした収縮など、複数の要因が関わっていると考えられています。現在の熱収支だけから、それぞれの寄与を正確に分けることはできません。

双子の天王星はなぜ冷えているのか|熱が外へ出にくい内部

同じように、天王星の熱収支も考えてみましょう。

天王星は太陽から約19天文単位の距離にあり、海王星よりも多くの太陽光を受け取ります。太陽光だけで決まる平衡温度は約58Kです。

ボイジャー2号は1986年に天王星を観測しました。そのデータから求められた有効温度は約59Kで、太陽光だけで決まる温度と大きくは違いませんでした。

この観測に基づく従来の評価では、天王星が内部から放出する熱は非常に少ないと考えられていました。

しかし、2025年には、数十年分の観測をまとめ直し、天王星の公転周期全体にわたる熱収支を評価した研究が発表されました。

この研究では、天王星が吸収する太陽エネルギーは平均して1m²あたり約0.614ワット、宇宙へ放出する熱エネルギーは約0.692ワットと推定されています。差し引きすると、内部から出てくる熱は約0.078ワットです。

つまり、天王星も太陽光だけでは説明できない熱を放出していました。ただし、その内部熱は海王星の約0.43ワットに比べると小さく、5分の1にも届きません。

天王星海王星
太陽からの距離約19天文単位約30天文単位
届く太陽の光(1m²あたり)3.69ワット1.51ワット
太陽の光だけで決まる温度約58K約47K
実際の有効温度59.1K59.3K
内部の熱(1m²あたり)約0.078ワット約0.43ワット

※天王星の内部熱は2025年の研究による推定値、海王星の値は従来の熱収支評価に基づく概算です。異なる研究に基づく数値であるため、厳密に同じ条件で得られた比較ではありません。

では、大きさも中身もよく似た2つの惑星で、なぜ内部熱の放出量がこれほど違うのでしょうか。はっきりした答えは、まだ出ていません。

考えられている説明の一つは、天王星の内部に、熱が外へ運ばれにくい層があるというものです。

惑星の内部では、温まった物質が上昇し、冷えた物質が下降する対流によって熱が運ばれることがあります。ところが、内部の成分が場所によって大きく異なると、物質が上下に動きにくくなり、熱が運ばれにくくなる可能性があります。

天王星の内部では、水素やヘリウムが多い外側と、水やメタンなどを多く含む内側との間に、熱の移動を妨げる層が形成されている可能性が研究されています。

このような層があれば、内部に蓄えられた熱が外へ出にくくなります。ただし、天王星の内部構造が完全にわかっているわけではなく、この説明も有力な仮説の一つです。

一方、海王星は天王星よりも多くの内部熱を放出しています。2つの惑星の内部構造や熱の運ばれ方が異なる可能性がありますが、その違いを十分に説明できるモデルはまだ確立されていません。

惑星が形成されるときの巨大衝突も、違いを生んだ可能性があります。2020年の研究では、天王星と海王星が受けた衝突の条件によって、内部の混ざり方や、その後の熱の放出に違いが生じた可能性が示されています。

内部の熱と活発な大気|嵐や風との関係

海王星の内部から放出される熱は、大気の状態にも影響していると考えられています。

惑星の内部から熱が運ばれてくると、大気の下層が温められます。温度差が生じることで、対流などの大気の運動が起こる可能性があります。

海王星では、天王星よりも活発な大気の運動が観測されています。大暗斑のような巨大な渦や、非常に速い風もその特徴です。

内部熱は、こうした大気の状態に影響する要因の一つと考えられています。ただし、海王星の大気が活発に動く理由を、内部熱だけで説明することはできません。

たとえば、海王星では最大で秒速580mほどの風が観測されています。これは時速に換算すると約2,100kmです。一方、内部熱の放出が少ない天王星でも、秒速250mほどの風が観測されています。

このことからも、風の強さと内部熱の量が単純に比例するわけではないとわかります。

惑星の大気の運動には、太陽から受け取るエネルギー、自転、温度差、大気の構造など、さまざまな要因が関係します。巨大惑星で非常に速い風が生じる仕組みについては、現在も研究が続いています。

理解のまとめ

海王星の熱収支を整理すると、太陽の光だけでは説明できない熱を放出していることがわかります。

  • 入ってくる太陽エネルギー:海王星での太陽光の強さは、地球軌道付近の約900分の1です。惑星全体で平均すると、吸収するエネルギーは1m²あたり約0.27ワットになります。
  • 宇宙へ放出する熱エネルギー:有効温度約59.3Kから求めると、1m²あたり約0.70ワットです。吸収した太陽エネルギーの約2.6倍に相当します。
  • 内部熱:熱収支の差から、1m²あたり約0.43ワットの熱が内部から供給されていると推定されます。惑星が誕生したときの熱や、ゆっくりした収縮などが、その供給源と考えられています。

天王星も海王星も、有効温度は約59Kです。しかし、熱収支の内訳は異なります。

天王星では、2025年の研究によって内部熱の存在が改めて評価されました。それでも、推定される内部熱は海王星より小さく、2つの惑星の違いは現在も研究されています。

太陽から遠い海王星が、天王星とほぼ同じ有効温度を保っているのは、太陽光だけでなく、内部から放出される熱も関係しているためです。

夜空に見える海王星の光は、太陽光を反射したものです。一方、海王星自身も、目には見えない赤外線として熱を宇宙へ放出しています。

太陽から遠く離れた惑星の熱収支を考えると、夜空に見える光の背後に、惑星の内部で続くエネルギーの流れがあることがわかります。

参考文献

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この記事を書いた人

夜空のしくみを物理からやさしく解説する天文メディア。執筆者の専門は電気化学で、国立天文台やNASAなどの資料を確かめながら書いています。

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