冬の天気予報で「上空の偏西風が南へ大きく蛇行しているため、強い寒波が流れこみます」という説明を聞いたことがあるでしょうか。日本の冬の寒さは、はるか上空を流れる風の曲がり方で決まっています。
一方、土星の北極には、差し渡し約3万キロメートルの六角形が刻まれています。地球が2つ並ぶ大きさの幾何学模様が、何十年も形を崩さずに回り続けているのです。
この2つは、まったく別の現象に見えます。けれど、どちらも同じ1つの性質から生まれています。ロスビー波です。

ロスビー波とは?|自転する球体に必ず現れる大規模な波
まず、言葉を定義します。
ロスビー波とは
自転する球体の上を流れる大気や海に生じる、惑星サイズの大きな波。スウェーデン出身の気象学者カール=グスタフ・ロスビーにちなむ。惑星波とも呼ばれる。
波と聞いて思い浮かぶのは、水面の波や音でしょう。どの波にも、ずれた流体を元へ戻そうとする力があります。水面波なら重力、音波なら圧力です。押し戻す力があるからこそ、流体は行き過ぎて振動し、波として伝わります。
ではロスビー波の復元力は何でしょうか。答えは自転そのものです。より正確に言えば、自転による見かけの力が緯度によって変わることが、大気を元の緯度へ押し戻します。
この波は小さくありません。地球では波長が数千キロメートル、太陽では太陽半径(約70万キロメートル)に匹敵する規模に達します。惑星波という別名は、波の大きさが惑星そのものと同じ桁になることから来ています。
なぜ大気は元に戻ろうとするのか?|絶対渦度の保存とβ効果
復元力の正体を、順を追って見ていきましょう。鍵になるのは渦度という量です。
渦度とは
流体の回転の度合いを表す量。大気には2種類ある。地面に対する回転が相対渦度、惑星の自転そのものが持ちこむ回転が惑星渦度。両者を足したものを絶対渦度と呼ぶ。
惑星渦度の大きさは、緯度で決まります。自転の角速度をΩ、緯度をφとすると、その値は 2Ω sinφ で表されます。この量はコリオリパラメータと呼ばれ、赤道でゼロ、極で最大になります。赤道では自転の軸に対して地表が縦に近い向きになり、上下方向から見た自転の成分がゼロになるため回転成分が現れず、極では真上から見下ろす形になるため最大になる、と考えるとイメージしやすいでしょう。
ここで物理法則が効いてきます。大気の塊には、惑星の自転による回転を含めた「全体としての回転の状態」を保とうとする性質があります。相対渦度と惑星渦度の和が変わらない、ということです。
北半球で、ある空気の塊が風の乱れによって北へずれたとしましょう。北へ行けば緯度が上がり、惑星渦度は大きくなります。和を保つには、相対渦度がその分だけ小さくならなければなりません。北へずれた空気の塊には、その変化を打ち消す向きの回転が生まれます。この回転による流れが、ずれを元へ戻す方向に働きます。
南へずれた場合は、すべてが逆になります。惑星渦度が減り、相対渦度が増え、反時計回りの回転が生まれ、塊は北へ押し戻されます。
振り子と同じです。押し戻された塊は元の位置で止まらず、勢いのまま行き過ぎ、また逆向きに押し戻されます。この繰り返しが振動になり、隣へ隣へと伝わって波になります。緯度によってコリオリパラメータが変わるこの効果をβ効果と呼び、βはその変化率を指します。
ロスビー波が「自転する球体でなければ生まれない波」だという理由は、ここにあります。ロスビー波が生まれる鍵は、単に自転していることではありません。自転の効果が場所によって変わることです。惑星では緯度によってコリオリパラメータが変化するため、この復元力が生まれます。
ロスビー波はなぜ西へ進むのか?|位相速度と帯状流のせめぎ合い
ロスビー波には、他の波と大きく違う性質があります。周囲の流れがない場合、ロスビー波の波形は自転と逆向き、つまり西へ進みます。
なぜそうなるのか、波の山と谷で考えてみましょう。北へ膨らんだ山の部分には、先ほど見たとおり時計回りの渦ができています。時計回りの渦は、その西側で空気を北へ、東側で空気を南へ動かします。すると山の西側が新しく北へ膨らみ、山の位置が西へずれるのです。南へ落ちこんだ谷でも同じことが起き、谷が西へずれます。山も谷も西へずれるので、波形全体が西へ進んでいきます。
ところが、この波が乗っている流れは東向きです。地球の偏西風も、土星や木星の帯状流も、多くは自転と同じ向きに吹いています。つまりロスビー波では、西へ進もうとする波と、東へ運ぼうとする流れが、常にせめぎ合っています。
そして両者がちょうど釣り合ったとき、波は地面に対して止まって見えます。
定常波とは
西向きの位相速度と東向きの流れが打ち消し合い、その場に留まって見える波。波としては動き続けているが、模様は動かない。
土星の六角形が何十年も同じ場所にあり続ける理由が、これです。模様が固まっているのではなく、進もうとする速さと運ばれる速さが釣り合い続けているだけなのです。
波の数は何で決まるのか?|自転速度と流れの強さが波長を選ぶ
では、波は何個できるのでしょうか。
ロスビー波の位相速度には、波長が長いほど西へ速く進むという性質があります。ということは、東向きの流れの速さが決まれば、それとちょうど釣り合う波長も1つに決まります。流れが速いほど、釣り合うために必要な波長は長くなります。
地球で確かめてみましょう。北緯45度あたりで偏西風の速さを秒速20メートルとすると、釣り合う波長は単純化したモデルで計算すると、約7,000キロメートルと計算できます。その緯度の地球一周は約28,000キロメートルですから、波はおよそ4個収まることになります。実際に観測される偏西風の蛇行も、波数3から6程度です。計算で得られる値は、観測される範囲ともおおむね一致します。
ただし、この釣り合いだけで波数が決まるわけではありません。もう1つ、流れの幅という要素が効いてきます。
細く速いジェット気流は、その両側との速度差が大きいため、まっすぐ流れ続けることができません。少しでも曲がると、その曲がりが自分で成長していく性質を持っています。これを順圧不安定と呼びます。このとき成長しやすい波の数は、ジェット気流の幅と速度差で決まります。
土星の北極の六角形について、波数が6になる理由を釣り合いの式だけで説明しようとすると、うまくいきません。現在有力なのは、極を回る細いジェット気流の順圧不安定が波数6を選んでいる、という説明です。回転する水槽で流れを作る実験でも多角形の模様が再現されていて、条件を変えると角の数が変わることが確かめられています。加えて、深部の対流が六角形を作っているとする研究もあり、成因はまだ1つに絞られていません。
波の数を決めているのは、自転の速さ、流れの強さ、そして流れの幅。この3つが、惑星ごとに違う模様を描き分けています。
惑星ごとに現れるロスビー波|地球・木星・土星・太陽
同じ物理が、天体ごとにどう顔を出すのかを並べてみます。
地球|寒波を運ぶ蛇行
地球のロスビー波は、上空の偏西風の蛇行として現れます。蛇行が南へ大きく張り出したところでは、北の冷たい空気が中緯度まで降りてきます。冬の寒波の正体は、この張り出しです。
ただし地球の蛇行は、きれいな幾何学模様にはなりません。海面との摩擦があり、ヒマラヤ山脈やロッキー山脈のような大きな地形が流れをかき乱すからです。波は毎年違う形にゆがみ、それが冬ごとの寒暖の差になります。
木星|縞模様に整理された流れ
木星の縞は、東西方向に走る帯状流が並んだものです。β効果が働く場では、乱れた流れのエネルギーが東西方向へ集まり、南北にばらけずに帯へと整理されていきます。木星の縞模様が消えないのは、この整理する働きが常に続いているためです。
NASA/JPLが示した大気循環の模式図では、木星には地球よりはるかに多くのフェレル型の循環セルが描かれています。地球のフェレル循環が片半球に1つであることと比べると、同じ仕組みが桁違いの数に分かれていることがわかります。木星の帯状流は、雲の層から約3,000キロメートル下まで達しています。

土星|波数6が刻んだ六角形

土星の北極では、極を取り巻くジェット気流が波数6で波打ち、その形が止まって見えています。差し渡しは約3万キロメートル。地球が2つ分並ぶ大きさです。
なぜこれほど整った形になるのでしょうか。固体の地面がない土星では、地形によって大気の流れが乱されることがありません。山脈や海陸分布が流れを複雑にする地球とは条件が違うため、極を回るジェット気流が大規模な模様を保ちやすいと考えられています。


太陽|2018年に見つかった巨大なうねり
ロスビー波は、大気を持つ惑星だけのものではありません。自転する流体であれば、恒星の内部にも現れます。
太陽のロスビー波は長く予想されていましたが、確認されたのは2018年のことでした。ドイツの研究チームが、太陽観測衛星SDOの6年分のデータから太陽表面の粒状斑の動きを追い、うねりを検出したのです。見つかった波は、太陽の自転とは逆向きに進み、数か月にわたって形を保っていました。波数3〜15程度の複数モードが確認されています。
さらに、このうねりが観測された大規模な表面運動のエネルギーの大きな部分を担っていることもわかりました。表面をなでる小さな模様ではなく、太陽内部の動きを構成する主役級の存在だったということです。
まとめ|大気の模様は偶然ではない
ここまでを整理します。
- 自転する球体では、コリオリパラメータが緯度によって変わる(β効果)
- 大気の塊は絶対渦度を保とうとするため、緯度がずれると元へ押し戻される
- 押し戻されて行き過ぎるので振動が生まれ、波になる
- 波形は必ず西へ進み、東向きの流れと釣り合うと止まって見える
- 波の数は、自転の速さ・流れの強さ・流れの幅で決まる
天体の大気に浮かぶ模様は、誰かが描いたものでも、気まぐれな偶然でもありません。自転する球体の上で流体が動く以上、必ず現れる構造です。惑星ごとに姿が違うのは、法則が違うからではなく、代入する数字が違うからにすぎません。自転が流体に模様を刻むという意味では、ダイナモ理論も、同じ根から伸びた話だと言えます。
つまりロスビー波とは、自転する天体が自分の大気に書きこむ署名のようなものなのです。
今夜、望遠鏡で土星をのぞいて北極まで見えなくても、木星の縞がぼんやりとしか判別できなくてもかまいません。あの光の向こうで大気を波打たせている力は、今日あなたの頭上を通り過ぎた風を曲げている力と、まったく同じものです。
参考文献
- Max Planck Institute for Solar System Research|Giant swirls on the Sun
- Löptien et al. (2018)|Global-scale equatorial Rossby waves as an essential component of solar internal dynamics, Nature Astronomy
- NASA|Cassini: Saturn’s Perplexing Hexagon
- Rostami et al. (2017)|On the dynamical nature of Saturn’s North Polar hexagon, Icarus
- Yadav & Bloxham (2020)|Deep rotating convection generates the polar hexagon on Saturn, PNAS
- NASA/JPL|Atmospheric Circulation Cells on Earth and Jupiter (PIA24965)