夜空を見上げると、青白く鋭い星もあれば、赤くにじむ星もあります。明るさもまちまちです。ばらばらに見えるこの星たちも、たった2つの数字で並べ直すと、きれいな秩序が浮かび上がります。
その並べ方を一枚の図にしたものがHR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)です。横軸に星の温度、縦軸に星の明るさをとるだけで、恒星はこの図のどこかに位置づけることができます。しかも、その「乗った場所」を見れば、星の大きさや重さ、今どんな一生の段階にいるかまで読み取れるのです。

HR図とは何か——星を2つの軸で並べた地図
まず、図の作り方から確認します。HR図は、たくさんの恒星を、次の2つの軸の上に点として置いたものです。
- 縦軸:光度(その星が実際に放っているエネルギーの総量)
- 横軸:表面温度
光度の目盛りは、太陽の約1万分の1から約100万倍まで、けた違いの広さに及びます。表面温度は、およそ3,000K(ケルビン)から30,000Kまでの範囲におさまります。太陽の表面温度が約5,800Kですから、その上下にかなりの幅があるとわかります。
HR図とは
恒星を、縦軸に光度、横軸に表面温度をとって配置した図。20世紀初頭にデンマークのヘルツシュプルングとアメリカのラッセルが独立に考案した。星の分布から、恒星の状態や進化段階を読み取ることができる。
ここで大切なのは、星をあいうえお順に並べたわけではない、ということです。光度と温度という、観測から求められる2つの量で並べただけ。にもかかわらず、点はランダムに散らばりません。ある帯に沿ってびっしりと集まり、いくつかの領域にかたまります。この「かたより」こそ、恒星を支配する物理が顔を出している場所なのです。
なぜ横軸は「右から左」へ温度が上がるのか
HR図を初めて見た人が戸惑うのが、横軸の向きです。ふつうの数直線とは逆で、左へ行くほど高温、右へ行くほど低温になっています。温度が右から左へ増えていく、と言い換えてもよいでしょう。
これは物理的な必然ではなく、歴史的な慣例です。HR図が作られた当時、星は温度そのものではなく、光を成分に分けた「スペクトル型」で分類されていました。スペクトル型は高温側からO・B・A・F・G・K・Mの順に並べる習わしがあり、O型(高温)を左端に置いていたのです。その並びをそのまま引き継いだため、温度軸は左が高温という、直感とは逆向きになりました。
星の光を成分に分けて温度を読む方法そのものは、恒星のスペクトル分類の記事でくわしく扱っています。ここでは「左が熱い、右が冷たい」とだけ頭に入れておけば十分です。
星の位置を決める物理——光度・温度・半径の関係
HR図の本当のおもしろさは、ここからです。縦軸(光度)と横軸(温度)は独立に見えて、実は星の半径という第3の量で結びついています。それをつなぐのが、シュテファン・ボルツマンの法則です。
シュテファン・ボルツマンの法則
物体の表面が単位面積あたりに放つエネルギーは、その絶対温度の4乗に比例する。温度が2倍になると、放射は約16倍になる。
星全体の光度は、「表面積 × 単位面積あたりの放射量」で決まります。表面積は半径の2乗に比例し、単位面積あたりの放射量は温度の4乗に比例します。この2つをかけ合わせると、光度は半径の2乗と温度の4乗に比例する、という関係が導けます。式にすると L ∝ R²T⁴、つまり光度は半径と温度で決まる、ということです。
この関係を逆から読むと、HR図の見え方が一変します。温度と光度が分かれば、半径が分かるのです。
たとえば図の右上を考えてみましょう。そこにいる星は、温度が低い(右)のに光度が高い(上)。温度が低ければ表面はあまり明るくないはずなのに、全体として大量のエネルギーを放っている。この矛盾を埋める答えは1つしかありません。表面積が桁違いに大きい、つまり半径がとてつもなく大きい星だということです。
逆に左下の星は、温度が高い(左)のに光度が低い(下)。表面は猛烈に明るいのに、全体では暗い。ということは、表面積がごく小さい、半径の小さな星にほかなりません。
こうして、HR図上の「どこにいるか」は、そのまま星の大きさを語っています。地図の位置に、目には見えない半径の情報が織り込まれているのです。

HR図の代表的な領域を読む
半径という視点を手に入れると、HR図の上に集まった星のかたまりが、意味を持って見えてきます。代表的な領域は次のとおりです。
主系列——全恒星の約90%が乗る帯
図の左上から右下へと、対角線状に伸びる帯があります。これが主系列で、恒星のおよそ90%がこの帯の上に乗っています。夜空の星の大多数、そして私たちの太陽も、ここにいます。
主系列とは
中心部で水素をヘリウムに変える核融合によって、安定してエネルギーを生み出している恒星の段階。恒星が一生の大半を過ごす、もっとも長い安定期にあたる。
主系列の星がなぜ安定しているのか、その内側で何が釣り合っているのかは、主系列星の記事でくわしく解説しています。ここでは、帯に乗っている星はみな「今まさに水素を燃やして輝いている現役の星」だと押さえておきましょう。

巨星・超巨星——右上の大きな星
図の右上には、温度が低めなのに光度が高い星が集まります。先ほどの読み方どおり、半径が非常に大きい星、すなわち巨星・超巨星です。赤くふくらんだ赤色巨星や、さらに巨大な赤色超巨星(さそり座のアンタレスなど)がここに位置します。赤く大きく膨らんだ星の正体は、赤色巨星の記事でたどれます。
白色矮星——左下の小さな星
図の左下には、温度が高いのに光度が低い星がぽつぽつと現れます。半径がごく小さい星、白色矮星です。地球ほどの大きさに太陽級の質量が詰まった、恒星の残骸にあたります。
同じ夜空の星でも、主系列・巨星・白色矮星は、HR図の上ではまったく別の場所に座っています。見かけの明るさや色の違いは、この「地図上の住所の違い」だったのです。

主系列のどこにいるかは、主に質量で決まる
では、主系列という長い帯の中で、ある星が上のほう(高温・高光度)にいるか、下のほう(低温・低光度)にいるかは、何が決めているのでしょうか。答えは、質量です。
主系列の星は、重いものほど帯の左上に、軽いものほど右下に並びます。ここには質量-光度関係と呼ばれる規則があり、質量が増えると光度は急激に増えます。おおよそ光度は質量の3〜4乗に比例し、質量が2倍の星は、10倍以上も明るく輝きます。
質量-光度関係とは
主系列星では、質量が大きいほど光度が急激に大きくなるという関係。重い星ほど明るく、その分だけ燃料の消費も速い。
明るいということは、それだけ激しく燃料を消費しているということでもあります。だから重い星ほど寿命が短くなります。太陽(並の質量)の寿命が約100億年なのに対し、太陽の10倍の質量を持つ星は、わずか数千万年で中心部の水素を使い果たします。派手に輝く星ほど、早く一生を終えるのです。主系列上の位置が質量で決まる、という一点に、星の一生の長さまで書き込まれています。

星は図の上を動く——進化トラック
ここまでは、星がHR図の上に静止しているかのように話してきました。けれど実際には、1つの星は一生のあいだに図の上を移動します。この移動の軌跡を進化トラックと呼びます。
進化トラックとは
1つの恒星が進化するにつれて、HR図上の位置を変えていく道すじのこと。星の一生を、光度と温度の変化として描いたもの。
たとえば太陽のような星は、まず主系列の帯の上で長い安定期を過ごします。やがて中心部の水素を使い果たすと、主系列を離れ、外層をふくらませながら右上の赤色巨星の領域へと移動します。そして最後には外層を宇宙へ放出し、残った中心核が左下の白色矮星の領域へ移ります。太陽がこの道すじをどうたどるのかは、太陽の寿命とは?の記事で、内部構造の視点から追いかけています。
つまり、HR図上のある星の位置は、その質量と、「今どの進化段階にいるか」の2つで決まります。図に散らばる無数の点は、それぞれ別の重さを持ち、それぞれ別の一生の途中にある星たちなのです。


まとめ|HR図は分類表ではなく「物理の地図」
HR図は、星をアルファベット順に整理した名簿ではありません。光度と温度という、観測から直接得られるたった2つの量で星を並べただけの図です。にもかかわらず、そこには半径・質量・進化段階という、目には見えない物理が次々と浮かび上がってきます。
- 縦と横の位置から、シュテファン・ボルツマンの法則を通じて半径がわかる
- 主系列上の位置から、質量-光度関係を通じて質量と寿命がわかる
- 図の上をどう動くかで、その星の一生の段階がわかる
だからこそ、HR図は分類表ではなく物理の地図なのです。夜空の星の明るさや色のばらつきは、光度と温度という2軸に整理でき、その一つ一つの位置は、質量と進化段階によって決まっていました。
今夜見上げる星の一つ一つも、この一枚の地図のどこかに必ず乗っています。青白く鋭い星は左上に、赤くふくらんだ星は右上に。色と明るさを意識して眺めるだけで、その星が地図のどのあたりにいるのかが、少しだけ見えてくるはずです。
参考文献