夜空を毎晩同じ時刻に見上げていると、星どうしの並びは変わりません。オリオン座は昇るときと沈むときで傾きを変えますが、三つ星の間隔が広がったり狭まったりすることはないのです。ところがその並びの中を、ゆっくりと位置を変えていく明るい光がいくつかあります。惑星です。去年見た場所と今年見る場所は、はっきり違います。
けれども、その動きは気ままではありません。惑星は太陽に吸い込まれることもなく、暗闇の向こうへ消えていくこともなく、同じ道を何度でも通ります。地球にいたっては、46億年ものあいだ同じことを繰り返してきました。
なぜ落ちないのでしょうか。そして、なぜ飛び去らないのでしょうか。この記事では、惑星が太陽のまわりを回り続けるしくみを、数式を使わずに解説します。結論を先に言ってしまうと、惑星は落ちていないのではありません。落ち続けているのに、いつまでも到着できずにいるのです。

惑星の軌道とは、重力に引かれながら進み続ける通り道
軌道とは、天体が重力を受けながら進む道筋のことです。
そして、惑星が太陽のまわりを一周することを公転と呼びます。地球の公転にかかる時間は1年。私たちが1年と呼んでいる長さは、もともと地球が軌道を1周する時間のことでした。
太陽から遠い惑星ほど、一周に時間がかかります。木星は約12年、海王星にいたっては約165年です。海王星が発見されたのは1846年ですが、発見された地点まで戻ってきたのは2011年のことでした。人類はまだ、海王星の1年を2回ぶんも見ていません。
こうした軌道は、太陽の重力が支配する空間の中に描かれています。太陽系の質量の約99.8%を太陽が占めているため、惑星の運動は基本的に太陽の重力によって決まります。もちろん、惑星どうしも重力で引き合っているので、軌道が完全に変わらないわけではありません。

なぜ惑星は太陽に落ちないのか
重力は、引き寄せる力です。押し返す働きは持っていません。太陽と地球のあいだに働いているのも、ひたすら引き合う力だけです。それなら地球は、まっすぐ太陽へ落ちていくはずではないでしょうか。
ここで見落とされがちなのが、惑星が横向きの速さを持っている点です。地球は太陽に引かれると同時に、軌道に沿って秒速およそ30kmで進んでいます。東京と大阪のあいだが約400kmですから、その距離を13秒ほどで通過している計算になります。
この2つが同時に起きると、何が起こるでしょうか。
地球は太陽に引かれながら、同時に横方向へ進み続けます。太陽の重力によって進む方向は少しずつ内側へ曲げられますが、そのあいだにも地球は前へ進みます。
こうして、太陽へ近づきすぎることも、太陽から離れて飛び去ることもなく、曲がり続ける道筋ができます。これが軌道です。
惑星は太陽に落ちていないのではありません。太陽へ引かれ続けながら、同時に前へ進み続けているのです。
なぜ惑星は宇宙へ飛び去らないのか
では逆の疑問です。秒速30kmもの速さで進んでいるのなら、そのまま太陽系の外へ飛び出していきそうなものではないでしょうか。
飛び出さない理由は、重力が休まないからです。物には、外から力が加わらないかぎりまっすぐ進み続ける性質があります。慣性と呼ばれる性質です。太陽の重力がなければ、地球は一直線に暗闇へ去っていくでしょう。実際には、太陽の重力が毎秒、進路をわずかに内側へ曲げ続けています。
ここで気をつけたいのは、これが力の釣り合いではないという点です。太陽が引く力と外へ逃げようとする力がつり合っている、という説明を見かけることがありますが、正確ではありません。惑星に働いている力は、太陽の重力ただひとつ。まっすぐ進もうとする性質と、それを曲げる力が組み合わさった結果として、閉じた道ができあがります。釣り合いではなく、合成なのです。
山の上の大砲で考える
言葉だけではつかみにくいので、ニュートンが遺した有名な思考実験を借ります。
とても高い山の頂上に、大砲を水平に据えます。弱く撃てば、弾はすぐ近くに落ちます。強く撃てば、もっと遠くに落ちます。さらに強く撃つと、着弾点はどんどん先へ延びていきます。
ところが地球は丸いので、遠くへ行くほど地面のほうが下へ逃げていきます。弾が落ちる分だけ地面も同じように下へ曲がっていく状態になると、弾は落ち続けているのに地面に届きません。地球を一周して、撃った人の背中に当たります。
これが軌道です。
ただし、速ければ何でもよいわけではありません。打ち出す速さや向き、そして打ち出す位置によって、弾は地面に落ちることもあれば、地球を回ることもあります。さらに速くすると、地球の重力を振り切って宇宙へ飛び去ることもあります。
国際宇宙ステーションは、まさにこのように地球へ落ち続けながら、地球の表面に届かない状態にあります。

止める力がないから、回り続ける
落ちない理由と飛び去らない理由は、これで説明できました。残る疑問は、なぜ何十億年も減速しないのか、です。
地上では、動いているものは必ず止まります。転がるボールは床との摩擦で止まり、投げたボールは空気に押されて速さを失います。止まるのが当たり前に見えるのは、地上に減速させる相手がいるからです。
宇宙空間には、その相手がほとんどいません。惑星が進む道筋には、こすれる床も、押し返す空気もありません。速さを奪うものがなければ、いったん動き出したものは動き続けます。太陽系が生まれたときのガスと塵の円盤が持っていた回転を、惑星たちは今も使い続けているわけです。
逆から見ると、抵抗がある軌道は少しずつ変化します。ISSが飛ぶ高度400kmには、わずかながら大気が残っています。そのわずかな抵抗で、ISSは少しずつ高度を下げていきます。だから定期的にエンジンを噴かして、軌道を持ち上げています。放っておけば、やがて高度が下がり、大気圏へ再突入します。
惑星の軌道が何十億年も続いているのは、運動を大きく乱すような抵抗がほとんどないからなのです。
軌道は円ではなく、少しつぶれた楕円
最後に、軌道の形の話をします。
惑星の軌道は、きれいな円ではありません。わずかにつぶれた円、つまり楕円軌道を描いています。太陽が座っているのも楕円の中心ではなく、中心から少しずれた位置です。
地球の場合、太陽に一番近づくときの距離は約1億4,710万km、一番遠ざかるときは約1億5,210万kmです。差は500万kmほど。数字としては大きいのですが、割合にすると3%ほどしかありません。紙に描いてみても、円との違いは肉眼ではまず見分けられないでしょう。
ちなみに地球が太陽に最も近づくのは、1月の初めごろです。日本の真冬にあたります。季節を決めているのが太陽との距離ではなく地軸の傾きであることが、ここから分かります。
つぶれ具合は惑星によって違います。太陽系で最も楕円が目立つのは水星で、近いときは約4,600万km、遠いときは約7,000万kmまで離れます。
そして楕円軌道を回る惑星は、一定の速さでは進みません。太陽に近いところでは速く、遠いところでは遅くなります。地球も、1月には秒速約30.3km、7月には約29.3kmと、わずかに速さを変えています。なぜ近いほど速くなるのかには、きちんとした法則があります。そこは別の記事に譲ります。
同じことは、惑星ごとの違いにも表れています。太陽から遠い惑星ほど、進む速さそのものが遅いのです。地球は秒速約30km、木星は約13km、土星は約9.7km、海王星にいたっては約5.4kmしかありません。遠い惑星の1年が長いのは、道のりが長いからだけではありません。そもそも、ゆっくり進んでいるからでもあるのです。
夜空で見る「落ち続けている光」
次に夜空で土星を見つけたら、その光を少しだけ違う目で見てみてください。
あの惑星は、暗闇に静かに浮かんでいるのではありません。秒速9.7kmで進みながら、同時に太陽の重力に引かれ続けています。太陽へ近づきすぎることも、太陽系の外へ飛び去ることもなく、29年半かけて太陽のまわりを一周しています。
軌道とは、位置ではなく運動です。惑星が夜空で少しずつ場所を変えていくのは、その運動が今も続いている証拠。だから来年の同じ日、土星は必ず少し違う場所に見えるはずです。
参考文献
- NASA Science|Orbits and Kepler’s Laws
- NASA Science|Our Solar System
- NASA NSSDCA|Planetary Fact Sheet
- NASA|International Space Station