海王星はなぜ青い?|メタンと大気のもやが決める「本当の色」

写真で見る海王星は、吸い込まれるような深い青をしています。となりの天王星は、淡い水色です。2つの惑星は、大きさも中身もよく似ています。それなのに、なぜ色がこれほど違うのでしょうか。そもそも、なぜ青いのでしょうか。

答えは2段階に分かれます。

1つめは、青く見える基本的なしくみです。大気の分子による散乱は、短い波長の青い光を強く散らします。一方、メタンは赤や緑の側を含む特定の波長の光を吸収します。

2つめは、天王星との色の差です。2024年に発表された研究で、見慣れた海王星の深い青は、画像のコントラストを強調した処理によって実際より青く見えていたことがわかりました。補正すると、2つの惑星はどちらも緑がかった青で、海王星のほうがわずかに青みが強い程度です。

そのわずかな差を生む重要な要素が、大気中のもやの層です。

この記事では、光が惑星の大気をくぐって戻ってくるまでの道のりを追いながら、レイリー散乱と光の吸収のしくみを読み解きます。

海王星
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
目次

惑星の色は戻ってくる光で決まる|太陽光のスペクトル

海王星は、自分で光っているわけではありません。私たちが見ているのは、太陽の光が海王星の大気で跳ね返り、地球まで戻ってきたものです。

太陽の光には、赤から紫まで、さまざまな色の光がまざっています。光の色を決めているのは、波長です。

  • 波長:光の波の山から山までの長さ。人の目で見える光では、紫や青がおよそ400nm(ナノメートル)、赤が700nmほど。1nmは100万分の1mm。

光を波長ごとに分けて並べたものを、スペクトルと呼びます。

惑星の色は、このスペクトルのうち、どの波長がどれだけ戻ってくるかで決まります。すべての色が同じように戻ってくれば、白く見えます。赤い光だけが減って戻ってくれば、残りの青や緑が目立ちます。

海王星に届く太陽の光は、地球に届く量の約900分の1しかありません。ただ、光の量の少なさは色には関係しません。色を決めるのは光の量ではなく、どの色がどれだけの割合で戻ってくるかです。

では、海王星の大気は、太陽の光をどう選り分けているのでしょうか。手がかりは大気の成分にあります。NASAのファクトシートでは、体積比で水素約80%、ヘリウム約19%、メタン約1.5%とされています。水やアンモニアなどを多く含む内部の構造から、海王星と天王星は巨大氷惑星と呼ばれます。その上を覆う大気の主役は、水素です。

赤い光を奪うメタン|深く潜った光ほど赤が消える

大気の成分のうち、色を大きく左右するのは、わずか1.5%のメタンです。

分子は、どんな波長の光でも同じように通すわけではありません。分子にはそれぞれ得意な揺れ方があり、その揺れ方に合った波長の光を選んで吸い取ります。メタンが吸収しやすい波長は、赤い光だけではありません。可視光の緑から赤の側、さらに目に見えない近赤外線にかけて、いくつもの吸収帯があります。

  • 吸収:物質が特定の波長の光を取り込み、そのエネルギーを自分の揺れや熱に変えること。

ここで効いてくるのが、光が大気の中を進む距離です。

大気の浅いところで跳ね返った光は、メタンの中をあまり通らずに戻ってきます。深くまで潜ってから戻ってくる光は、行きと帰りの両方で、たくさんのメタンの中を通り抜けます。通り抜けるメタンが多いほど、赤い光は吸い取られて減っていきます。

海王星や天王星では、太陽の光が水素の大気の中を深くまで潜っていきます。深く潜った光ほど、戻ってくるころには赤が抜けているのです。

青を送り返すレイリー散乱|地球の青空と同じ物理

赤い光が消えるだけでは、まだ説明は半分です。青い光は、なぜ戻ってくるのでしょうか。

ここで登場するのが、レイリー散乱です。

  • レイリー散乱:光の波長よりずっと小さい粒(分子など)が、光を四方八方に散らす現象。散らされやすさが波長の4乗に反比例し、波長の短い青い光ほど強く散らされるのが特徴。

4乗に反比例するというのは、波長が短くなるほど、散らされやすさが急に大きくなるという意味です。レイリー散乱だけを波長の違いで比べると、400 nmの光は700 nmの光より約9倍散らされやすくなります。

地球の空が青いのも、同じ物理です。地球では、窒素や酸素の分子が太陽の青い光を空いっぱいに散らしています。海王星で同じ役割を果たしているのは、大気の大部分を占める水素の分子です。

2つのしくみを重ねると、海王星の色の成り立ちが見えてきます。

  • 青い光:大気の浅いところで水素の分子に散らされ、深く潜る前に宇宙へ送り返されます
  • 赤い光:散らされにくいので深くまで潜り、その途中でメタンに吸い取られます

散乱は青を返し、吸収は赤を奪う。2つの効果が同じ向きにはたらくため、戻ってくる光には青から緑にかけての色が多く残ります。これが、海王星と天王星が青く見える理由です。

海王星は本当に深い青なのか|ボイジャー画像の色補正

ここまでのしくみは、海王星と天王星に共通です。では、写真で見るあの色の違いは、どこから来るのでしょうか。

海王星のもっとも有名な写真は、1989年にボイジャー2号が撮影したものです。ボイジャー2号のカメラは、色のついたフィルターを通して白黒の画像を何枚も撮り、あとから合成して色のついた画像を作ります。

2024年、イギリスのオックスフォード大学のパトリック・アーウィンらは、この合成のしかたを見直しました。その結果、海王星の画像にはコントラストを強調する処理が施されており、実際よりも青く見えていたことがわかりました。一方、天王星の画像は、本当の色に近い形で公開されていました。

研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡と、チリにあるヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡VLTの観測データを使いました。どちらも、光を細かい波長ごとに分けて測る分光器による観測です。どの波長の光がどれだけ戻ってくるかという実測値に合わせて、画像の色を調整し直しました。

補正した画像の2つの惑星は、ほぼ同じ淡い緑がかった青をしていました。海王星のほうが、ほんの少しだけ青みが強い程度です。

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた天王星(左・2005年)と海王星(右・2018年)。複数のフィルターの画像を合成した強調色で、自然な見た目の色ではありません。 ハッブル宇宙望遠鏡の天王星(2005年)と海王星(2018年)を並べた画像
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた天王星(左・2005年)と海王星(右・2018年)。複数のフィルターの画像を合成した強調色で、自然な見た目の色ではありません。
Image Credit: NASA, ESA, Mark Showalter (SETI Institute), Amy Simon (NASA-GSFC), Michael Wong (UC Berkeley), Andrew Hsu (UC Berkeley)

つまり、2つの惑星の色の差は、写真の印象ほど大きくはありませんでした。問いは、なぜ深い青なのかから、なぜ海王星のほうがわずかに青いのかへと、小さく絞られたことになります。

わずかな色の差を生むもやの層|メタンの雪が大気を掃除する

わずかな差の答えは、2022年に同じアーウィンらのチームが発表した研究にあります。

海王星や天王星には地面がありません。そのため、大気の中の高さは、その場所の気圧で表します。1気圧は、地球の地表での空気の圧力です。深く潜るほど、上に積み重なった大気の重さで、気圧は高くなっていきます。

研究チームは、2つの惑星の大気に、主に3つのもやが層になっているモデルを考えました。

  • いちばん深い層:5〜7気圧より深いところ。硫化水素の氷と、太陽の光がつくり出したもやの粒がまざった厚い層
  • 真ん中の層:1〜2気圧のあたり。メタンが冷えて凍る高さにある、もやとメタンの氷の層
  • いちばん上の層:真ん中の層から上空へ広がる、薄いもや

色の差を生んでいるのは、真ん中の層です。この層は、天王星のほうが海王星より厚くなっています。

もやの粒は、メタンのように特定の波長だけを強く吸収するわけではありません。そのため、もやが厚いほど、さまざまな波長の光が大気の浅いところで散らされ、白っぽい光が多く戻ってきます。

その結果、メタンによって赤や緑の側の光が取り除かれる効果が弱まり、惑星全体の青みが薄まります。

では、なぜ海王星のもやは薄いのでしょうか。

研究チームの説明はこうです。2つの惑星とも、真ん中の層では、メタンがもやの粒のまわりで凍りつきます。重くなった粒は、メタンの雪となって深いところへ落ちていきます。もやが雪に取り込まれて、下へ引きずり下ろされるわけです。

海王星の大気は、天王星より活発に動いているとされています。メタンをこの層まで巻き上げ、雪を降らせるはたらきが強いため、もやがより多く取り除かれると考えられています。海王星の大気が活発な理由には、太陽の光だけでは説明できない内部からの熱が関わっている可能性があります。

この3つの層のモデルは、海王星にときどき現れる暗い斑点の説明にもつながっています。

天王星は季節で色を変える

もやの層の考え方は、天王星のもう一つのふしぎも説明します。

アメリカのローウェル天文台は、1950年から2016年まで、天王星の明るさと色を測り続けてきました。その記録を見ると、天王星は至(夏至や冬至)のころにやや緑がかり、分点(春分や秋分)のころにはやや青みを帯びていました。

天王星は、自転軸がほぼ横倒しになっています。そのため天王星の季節は、約21年ずつ移り変わります。至のころには、北極か南極のどちらかが太陽のほうを向きます。

2024年の研究では、天王星の極域ではメタンの量が少なく、さらに1〜2気圧付近のもやの層の反射特性も変化すると考えられています。

メタンが少ない極域では、赤や緑の側の光が吸収されにくくなります。そこに、長い波長側の光をより反射しやすくなるもやの変化が加わることで、極域は周囲より白っぽく見えるようになります。

天王星の自転軸はほぼ横倒しなので、季節によってこの極域が地球から見える割合が変わります。そのため、天王星は至のころにやや緑がかり、分点のころにはやや青みを増すことが観測されています。

理解のまとめ

海王星と天王星が青く見えるしくみは、2つの物理の組み合わせでした。

  • レイリー散乱:水素の分子が、波長の短い青い光を強く散らして送り返します(赤い光の約9倍)
  • メタンの吸収:深く潜った赤い光は、メタンに吸い取られて戻ってきません

見慣れた深い青の海王星は、ボイジャー2号の画像を強調した色でした。実際の2つの惑星は、ほぼ同じ緑がかった青をしています。そのわずかな差は、1〜2気圧にあるもやの層の厚さで決まります。海王星では、活発な大気がメタンの雪を降らせ、もやを取り除いていると考えられています。

つまり惑星の色は、表面に塗られた色ではありません。太陽の光が大気の中でたどった道のりの記録なのです。

望遠鏡を向けると、海王星は青みを帯びた小さな点として見えてきます。その光は、45億km先の大気で水素に散らされ、メタンの間をくぐり抜けて戻ってきた太陽の光です。

参考文献

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この記事を書いた人

夜空のしくみを物理からやさしく解説する天文メディア。執筆者の専門は電気化学で、国立天文台やNASAなどの資料を確かめながら書いています。

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