海王星の大暗斑とは?|高気圧の渦が数年で消える、コリオリの力のしくみ

1989年8月、探査機ボイジャー2号は、海王星の南半球に暗く大きな楕円の模様を見つけました。長さはおよそ1万3,000km。地球の直径とほぼ同じ大きさです。大暗斑と名づけられたこの模様は、5年後の1994年、ハッブル宇宙望遠鏡が同じ海王星を見たときには消えていました。

木星にも、大赤斑という巨大な渦があります。こちらは少なくとも190年にわたって観測されてきました。同じ巨大惑星の渦なのに、海王星の渦はなぜ数年で消えてしまうのでしょうか。

手がかりは、自転する惑星の上で動く空気にはたらく、コリオリの力です。この記事では、大暗斑の正体である高気圧の渦がどう保たれ、どう崩れるのかを読み解きます。

ボイジャー2号がとらえた海王星の大暗斑
1989年、ボイジャー2号が最接近の45時間前にとらえた大暗斑。渦は反時計回りに回り、ふちに白い雲がかかっています。
Image Credit: NASA/JPL
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大暗斑とは|ボイジャー2号が見た、長さ約1万3,000kmの渦

大暗斑は、1989年にボイジャー2号が海王星を通り過ぎたときに見つけた、暗い楕円の模様です。大きさは約1万3,000km×6,600km。長いほうの幅は、地球の直径(約1万2,700km)とほぼ同じです。

ボイジャー2号は、この模様を数か月にわたって撮影し続けました。わかってきたのは、次のような姿です。

  • 回っている:模様は渦を巻いていて、反時計回りに回転していました
  • 白い雲がつき従う:暗い部分のふちや周りに、白くて明るい雲が浮かんでいました
  • 動いている:観測の間にも、1か月に1度あまりのペースで少しずつ赤道の側へ移動していました

同じ時期、海王星にはもう一つ小さな暗い渦と、スクーターと呼ばれる速く動く白い雲も見つかっています。ところが1994年、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した海王星には、大暗斑も小さな暗い渦も見当たりませんでした。

その後もハッブル宇宙望遠鏡は海王星を見守り続け、暗い渦が何度も現れては消えることがわかってきました。2018年に北半球で見つかった渦は、ハッブル宇宙望遠鏡が生まれるころから記録できた最初の暗い渦です。

正体は高気圧の渦|コリオリの力が回転の向きを決める

大暗斑の正体は、高気圧の渦だと考えられています。

  • 高気圧:まわりより気圧が高い場所。

空気は、気圧の高いところから低いところへ押し出されます。ふつうに考えれば、高気圧から押し出された空気は、まっすぐ外へ流れ出ていきそうです。それが渦を巻くのは、惑星が自転しているからです。

  • コリオリの力:回転するものの上で動く物体に、進む向きを横へ曲げるようにはたらく見かけの力。

海王星は、地球と同じ向きに約16時間で1回転しています。そのため、動く空気が曲げられる向きも地球と同じです。北半球では進む向きの右へ、南半球では左へ曲げられます。

高気圧から外へ流れ出そうとする空気は、コリオリの力によって進む向きを曲げられます。気圧の差によって生じる空気の流れと、コリオリの力による曲がり方が組み合わさることで、高気圧のまわりを回る流れができます。

北半球の高気圧は時計回りに、南半球の高気圧は反時計回りに回るのが基本です。南半球にあった大暗斑が反時計回りだったのも、この規則と一致しています。

回り始めた空気には、気圧の差で外へ押し出そうとする力と、コリオリの力で内側へ曲げようとする力が同時にはたらきます。この2つがつり合うと、空気は外へ逃げずに、渦の形のまま回り続けます。大暗斑を保つしくみの一つが、このつり合いだと考えられています。

白い雲がつき従う理由

暗い渦には、白い雲がつき従っていることがよくあります。この雲は、メタンの氷の粒でできています。

渦のまわりを流れる空気は、渦の上を乗り越えるように持ち上げられます。持ち上げられた空気は冷え、ふくまれていたメタンが凍って白い雲になります。NASAは、地球で高い山の上にできる笠雲(かさぐも)にたとえています。ボイジャー2号の画像でも、白い雲は暗い部分より高いところに浮かんでいました。

この白い雲は、渦の深さを知る手がかりにもなります。2018年の渦では、暗い模様が見えるようになる2年も前から、同じ場所に白い雲が現れていました。研究チームはこれを、渦が見えている高さよりもずっと深いところで生まれていたしるしだと考えています。

なぜ暗く見えるのか|約5気圧の深い層で起きていること

では、渦はなぜ暗く見えるのでしょうか。

長いあいだ有力だったのは、雲の切れ間という考え方でした。渦のところだけ上空の雲やもやが晴れ、その下の暗い層がのぞいている、という説明です。

これを確かめたのが、2019年の観測です。チリにあるヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡VLTが、2018年の渦を地上から初めてとらえました。使われたのは、光を細かい波長ごとに分けて測る分光器です。

光の波長ごとに暗さを調べると、渦が暗いのは、波長700nmより短い光(青や緑の側)だけでした。暗くなっていたのは、上空のもやではありません。約5気圧の深さにある層でした。

海王星の大気には、もやが高さの違う3つの層になって浮かんでいると考えられています。約5気圧の層は、そのいちばん深い層です。硫化水素が凍ってできた層ではないかとされています。もやの層が海王星の色をどう決めているかは、別の記事にまとめました。

2023年に発表されたこの研究の結論は、雲の切れ間ではなく、深い層の粒そのものが暗くなっている、というものでした。ヨーロッパ南天天文台は、大気の中で氷ともやがまざり合うことで、粒が暗くなる可能性を挙げています。どうして暗くなるのか、くわしいしくみはまだわかっていません。

同じ観測では、暗い渦のすぐそばに、これまで知られていなかった明るい斑点も見つかりました。暗い渦と同じ深さの層が、波長700nmより長い光で明るくなっていたのです。同じ層の粒が、場所によって暗くも明るくも変わっていることになります。

数年で消える理由|赤道への移動と渦の寿命

ハッブル宇宙望遠鏡による長年の観測から、海王星の暗い渦の暮らしぶりが見えてきました。

  • 現れる間隔:4〜6年ごとに新しい渦が現れます
  • 寿命:長いものでは6年ほど続きますが、2年ほどで消えるものが多くなっています

消えていく理由を考えるには、コリオリの力のもう一つの性質を知る必要があります。コリオリの力は、どの緯度でも同じ強さではありません。水平に動く空気を横へ曲げるはたらきは、極で最も強く、赤道に近づくほど弱まり、赤道の上ではゼロになります。

渦を保つうえで重要なのが、気圧の差とコリオリの力、そして周囲を流れる風との関係です。赤道に近づけば、つり合いの片方が弱くなっていきます。そのため、海王星の暗い渦は赤道へ向かって流されると、形を保てなくなって崩れると考えられています。

こうした渦の動きは、自転する惑星の大気ならではのものです。コリオリの力が緯度によって変わることは、自転する惑星の大気で渦や波が生まれるしくみの土台にもなっています。

この考え方を試す機会になったのが、2018年の渦です。

2018年9月、ハッブル宇宙望遠鏡は北半球に新しい暗い渦を見つけました。大きさは約7,400km。大西洋の幅より広い渦です。2019年になると、渦は予想どおり南の赤道の側へ流され始めました。

ところが2020年8月までに、渦は向きを変えて北へ引き返しました。コンピューターによる予測にはなかった動きです。同じ2020年1月には、そばに約6,300kmの小さな暗い渦が現れ、やがて消えました。大きな渦からちぎれたかけらだった可能性が指摘されています。

それでも、最後は赤道の近くで終わりました。この渦を誕生から消滅まで追った研究が、2026年に発表されています。それによると、渦が生きていたのは3.7〜4.9年。2022年には赤道から8度以内のところにいて、そのまま薄れて見えなくなりました。

途中で引き返すことはあっても、赤道の近くで消えるという大きな流れは変わらなかったことになります。

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた海王星の暗い渦(2020年1月)
2020年1月にハッブル宇宙望遠鏡がとらえた海王星。上の大きな暗い渦(2018年に発見)と、その右の小さな暗い渦。
Image Credit: NASA, ESA, STScI, M.H. Wong (University of California, Berkeley) and L.A. Sromovsky and P.M. Fry (University of Wisconsin-Madison)

木星の大赤斑との違い|渦を留める風の帯

木星の大赤斑も、高気圧の渦です。同じ高気圧の渦なのに、大赤斑は少なくとも190年にわたって姿を保ってきました。その違いを生んでいるのは、渦のまわりを吹く風の帯のつくりです。

木星の縞模様は、東向きと西向きに交互に吹く、幅の細い風の帯でできています。大赤斑は、この細い帯にはさまれています。細い風の帯が両側から渦を支え、ばらばらになるのを防ぐとともに、南北に動かないように押さえています。大赤斑は木星を東西にぐるりと回りますが、南北にはほとんど動きません。

海王星の風は、つくりが違います。赤道のあたりでは西向きの風が吹き、緯度の高いところでは東向きの風が吹いています。風の速さは最大で秒速580m、時速にすると約2,100kmに達します。ただ、風の帯の幅が木星よりずっと広いのです。渦を両側から支える細い帯がないため、海王星の渦は南北にゆっくり流されていきます。

木星の細い風の帯は、渦を同じ緯度に留めるレールのようなものです。海王星にはそのレールがありません。流された先の赤道でコリオリの力が弱まり、渦は形を保てなくなります。

理解のまとめ

大暗斑は、海王星の大気に生まれた高気圧の渦でした。

  • 回転の向き:コリオリの力が、高気圧から流れ出す空気を曲げて渦を回します
  • 形を保つしくみ:気圧の差で外へ押す力と、コリオリの力で内へ曲げる力のつり合い
  • 暗く見える理由:約5気圧の深い層の粒が、青や緑の光で暗くなっています
  • 消える理由:幅の広い風の帯のせいで赤道へ流され、コリオリの力が弱まる場所でつり合いが崩れます

つまり渦の寿命を決めているのは、渦そのものの強さよりも、緯度によって変わるコリオリの力と、渦を取り巻く風の帯のつくりなのです。

海王星では4〜6年ごとに、新しい渦が生まれてきました。海王星が宇宙へ出しているエネルギーのうち、6割ほどは太陽の光ではなく、内部からの熱です。渦や風を動かすエネルギーにも、この内部の熱が関わっていると考えられています。

肉眼では見えない45億km先の青い惑星の上で、渦は生まれ、赤道へ流され、また消えていきます。

参考文献

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この記事を書いた人

夜空のしくみを物理からやさしく解説する天文メディア。執筆者の専門は電気化学で、国立天文台やNASAなどの資料を確かめながら書いています。

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