南半球の夜空には、日本からは見えない一等星がいくつもあります。そのひとつが、ケンタウルス座のハダルです。すぐ近くに輝くもう一つの一等星、アルファ・ケンタウリとともに、南十字星を指し示す「道しるべの星」として親しまれています。
ハダルの見かけの明るさは、隣のアルファ・ケンタウリと同じくらいです。ところが両者の「実際の明るさ」は、比べものにならないほど違います。ハダルは、太陽の何万倍もの光を放つ大質量星の連星なのです。

ハダルとは?|南十字を指す青白い星
ハダルは、ケンタウルス座のβ星です。見かけの等級は約0.6等で、全天でも指折りの明るい星のひとつです。青白い色は、表面温度の高さを示しています。その温度はおよそ2万5000度。太陽の約6000度の4倍を超える熱さが、そのまま色に出ているのです。
ただし、この星は日本の本州からは見えません。赤緯が大きく南に寄っているため、地平線の上に昇らないのです。南半球やオーストラリアでは、南十字星のそばで堂々と輝く目立つ星です。
地球からの距離はおよそ390光年。隣のアルファ・ケンタウリ(約4.4光年)と見かけの明るさは同じくらい(どちらも0等前後)なのに、距離はおよそ90倍も遠い。これは、ハダルが桁違いに明るい星であることを意味します。同じくらいに見える2つの星が、実際にはまったく違う実力を持っている——ハダルは、見かけの明るさだけでは星の正体がわからないことを教えてくれます。

ひとつに見えて、実は複数|高光度の連星系
ハダルは単独の星ではなく、複数の星からなる系です。中心には、それぞれ太陽の10倍を超える質量を持つ青白い大質量星が2つあり、たがいのまわりを回り合っています。さらに離れたところをもう1つの星がめぐっており、全体としては三重星です。
この系全体が放つ光は、太陽の数万倍にのぼります。これほど遠くにありながら一等星として見えるのは、その莫大な光量ゆえです。ではなぜ、大質量星はこれほど明るいのでしょうか。

なぜ重い星は莫大に明るいのか|質量とエネルギーの関係
星の明るさは、質量によってほぼ決まります。そして、その関係はとても急です。質量が少し増えるだけで、明るさは跳ね上がります。
理由は、星の中心部の状態にあります。重い星ほど、外層の重みで中心が強く押しつぶされ、温度と圧力が極端に高くなります。核融合の反応速度は温度が少し上がるだけでも急激に増えるため、中心が高温になるほど猛烈な勢いで進みます。その結果、質量が数倍違うだけで、星が生み出すエネルギーは数百倍から数千倍にもなります。これを「質量光度関係」と呼びます(この関係は、主系列の星でとくにはっきり現れます)。
ハダルの中心をなす2つの大質量星は、それぞれ太陽の10倍以上の質量を持っています。こうした大質量星が組み合わさることで、系全体では太陽の数万倍という莫大な光を放っています。ただしこの激しさには代償があります。燃料を猛烈な速さで使うため、大質量星の寿命は数百万年ほどと短く、最後は超新星爆発で一生を終えると考えられています。明るさと短命さは、大質量星では常にセットなのです。

今夜、見えない南天の星に思いを馳せる
ハダルは日本の本州からは見えません。しかし南半球へ旅すれば、南十字星のすぐそば、アルファ・ケンタウリと並んで輝く青白い星として見つけることができます。この2つの星を結んで延ばすと、南十字星に行き当たる——南天では有名な星の道しるべです。
見かけの明るさが隣の星と同じくらいでも、ハダルは90倍も遠く、それでも同じ明るさに見えるほど莫大な光を放っています。その光の源は、太陽の10倍を超える大質量星たちの、激しく短い核融合です。いつか南天の下に立つことがあれば、隣り合う2つの星の「実力の差」を思い出しながら見上げてみてください。
まとめ
ハダルはケンタウルス座の青白い一等星で、その正体は太陽の10倍を超える大質量星を含む三重星系です。系全体の光度は太陽の数万倍にのぼります。
隣のアルファ・ケンタウリと見かけの明るさが同じくらいなのに約90倍も遠いことは、ハダルが桁違いに明るい大質量星であることを示します。重い星が莫大に明るいのは、中心の高温高圧で核融合が激しく進む「質量光度関係」によるものです。そして、その明るさは短命さと引き換えです。
今夜は見えなくても、南天で隣り合う2つの星の「実力の差」を思い浮かべてみてください。
参考文献
- Ausseloos, M., Aerts, C., Lefever, K., Davis, J., & Harmanec, P. (2006). High-precision elements of double-lined spectroscopic binaries from combined interferometry and spectroscopy. Application to the β Cephei star β Centauri. A&A, 455, 259.
- Davis, J. et al. (2005). Orbital parameters, masses and distance to β Centauri. MNRAS, 356, 1362.