なぜ銀河の渦は消えないのか?|腕の正体は、星の並びではなく密度波

秋の夜、アンドロメダ座の方向に淡いしみのような光が見えます。その正体は、渦を巻いた銀河です。望遠鏡で撮った写真を見ると、中心から腕が伸び、きれいな渦を描いています。

この渦は、回転が描いた模様のように見えます。実際、銀河の円盤は回っています。私たちの太陽系も、天の川銀河の中心を秒速約220キロメートルで回り続けています。

ところが、ここに困ったことが起きます。銀河の円盤は、内側ほど短い時間で一周します。もし腕が星の並びでできているなら、内側の部分が先に進み、腕はどんどん巻き取られていくはずです。数十億年もたてば、渦はきつく巻きつぶれて、模様として見えなくなります。

それなのに、宇宙のどこを見ても、渦巻銀河は渦を巻いたままです。

この食い違いに答えたのが、密度波という考え方でした。結論から書きます。腕は、星の並びではありません。腕は、星やガスの混み具合が作る波です。

2本の腕がはっきりした渦巻銀河M51。右上の小さな天体が伴銀河NGC 5195
Image Credit: NASA, ESA, S. Beckwith (STScI) and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)
目次

銀河の円盤は、内側ほど速く一周する|差動回転

まず、銀河の回り方を確かめます。

差動回転とは

円盤や球が、場所によって違う周期で回る回転のしかた。中心に近い部分ほど、短い時間で一周する。

天の川銀河の円盤は、レコード盤のように一体では回っていません。太陽系は中心から約2万6000光年の位置にあり、秒速約220キロメートルで回っています。一周にかかる時間は約2億3000万年。太陽が生まれてから46億年ですから、これまでに20周ほどした計算になります。

では、もっと内側の星はどうでしょうか。

ここで効いてくるのが、中心から離れても回転の速さがほとんど落ちないという観測事実です。内側の星も外側の星も、秒速200キロメートル台で回っています。

速さが同じなら、一周の道のりが短いほど早く戻ってきます。円周は半径に比例しますから、中心から1万3000光年、つまり太陽の半分の距離にある星は、およそ1億1500万年で一周します。太陽の半分の時間です。

星をこの軌道につなぎとめているのは重力です。円運動の速さは、その星より内側にある質量が作る重力で決まります。ちなみに、外側でも速さが落ちない理由は、見えている星とガスだけでは説明がつきません。目に見えない質量が必要になります。

星の並びでできた腕なら、渦は巻きつぶれる|巻き込みの困難

では、この差動回転する円盤の上に、腕を描いてみましょう。

中心から外へ向かって、星がまっすぐ一列に並んでいるとします。回転が始まると、内側の星が先に進み、列は曲がります。渦の形になります。ここまでは、渦巻銀河の姿に近づいています。

問題はその先です。列は曲がり続けます。10億年たつと、太陽の位置にある星は約4.3周、その半分の距離にある星は約8.7周します。差は4周以上。腕は円盤に4重以上も巻きついてしまいます。

天文学辞典はこの結末を、100億年ほどで腕のピッチ角が0.3度になる、と説明しています。ピッチ角とは、腕が円からどれだけ開いているかを表す角度です。0.3度なら、もうほとんど円と変わりません。

巻き込みの困難とは

腕がいつも同じ天体でできているとすると、差動回転によって腕が何重にも巻き込んでしまい、実際に見えている渦巻銀河の姿と合わなくなる問題。

実際の渦巻銀河に、そんな姿のものはほとんどありません。腕は大きく開いていて、腕と腕のあいだには広いすきまがあります。

つまり、腕は同じ星を抱えたまま100億年も形を保つことができません。腕の正体を、別のところに探す必要があります。

腕は物ではなく、混雑そのもの|密度波

1964年、リンとシューは、渦状腕を円盤の上を伝わる波として説明しました。

密度波とは

円盤を伝わる、星やガスの混み具合(密度)の波。腕の場所にいる天体は入れ替わっていき、混んでいるという状態だけが残る。

高速道路の渋滞を思い出してください。渋滞の中にいる車は、10分前にそこにいた車とは入れ替わっています。それでも渋滞そのものは消えません。しかも渋滞の位置は、車の流れとは別の速さで動きます。

銀河の腕も同じです。いま腕の中に見えている星は、やがて腕を出ていきます。代わりに別の星が入ってきます。中身は入れ替わり、模様だけが残ります。

ただし、たとえが通じるのはここまでです。道路の渋滞はブレーキで生まれますが、銀河の混雑を保っているのは重力です。星が少し混み合った場所では、そのぶん重力が強くなります。近づいてきた星は引き寄せられて動きを変え、その場所に長くとどまります。とどまる星が増えれば、重力はさらに強くなります。自分の重力で自分を維持する構造。これが密度波の芯にある物理です。

パターン速度とは

渦の模様そのものが回る角速度。星の回転とは別に決まり、どの半径でもひとつの値を持つ。

ここが肝心なところです。星は内側ほど速く回ります。けれど模様は、一枚の板のようにひとつの角速度で回ります。だから巻き込まれません。巻き込みの困難は、腕を「物」から「波」に置き換えることで消えてしまいます。

星の回る速さと模様の速さがちょうどそろう半径もあります。共回転半径と呼ばれる場所です。そこより内側では星が腕を追い越し、外側では腕のほうが星を追い越していきます。星と腕がすれ違う向きは、場所によって逆になるわけです。

模様は動かないのに中身は流れていく、という構造は、銀河だけのものではありません。土星の北極の六角形も、進もうとする速さと運ばれる速さが釣り合って止まって見えている模様です。

なぜ腕だけが青く光るのか|ガスの圧縮と、短い命の星

密度波は、星だけの話ではありません。派手に反応するのは、むしろガスのほうです。

星どうしは、すれ違ってもぶつかりません。星の大きさに比べて、間隔が桁違いに広いからです。ガスは違います。腕に流れこんだガスは、先に入ったガスにぶつかって急に減速し、圧縮されます。

銀河衝撃波とは

渦状腕に流れこんだガスが急に減速して生じる衝撃波。ガスが圧縮され、星が生まれるきっかけになる。

圧縮されたガスは星が生まれる冷たい雲になり、自分の重力でつぶれて星になります。

生まれた星の中には、太陽の何十倍も重い星が混じります。重い星は青白く輝き、そしてすぐに死にます。寿命は数百万年から1000万年ほど。太陽の1000分の1以下です。

数字で追ってみましょう。青い星が、腕に対して秒速30キロメートルで動いているとします。1000万年で進める距離は、およそ1000光年です。いっぽう太陽の近くでは、いて座腕とペルセウス腕の間隔が約1万光年あります。青い星は次の腕にたどり着くどころか、腕から大きく離れる前に燃え尽きてしまいます。

太陽のような星は100億年輝き続けますから、円盤じゅうに散らばっています。腕の中にも外にもいます。

だから腕は、星が特別に多い場所というより、いま星が生まれている場所です。生まれたばかりの青い星と、その光を浴びて輝くガスが、腕の形を縁取っているのです。

腕が波である証拠|内側に寄った暗い帯と、赤外線で見える腕

ここまでは理屈です。では、腕が波だという証拠はあるのでしょうか。

ひとつ目は、塵の帯の位置です。

渦巻銀河を拡大すると、腕に沿って暗い帯が走っています。この帯は腕の内側、つまり渦の凹んだ側に寄っていて、その外側に若い星の集団が並びます。ガスが腕に入って圧縮され、少し遅れて星が生まれる、という順番がそのまま並んで見えているわけです。共回転半径の内側では、星もガスも模様を追い越して外へ抜けていくので、この並び方になります。

ただし、この並びがどの銀河でもきれいに見えるわけではありません。腕から離れるほど星が古くなる並びを確認できた銀河もあれば、はっきりしない銀河もあります。強い証拠ではありますが、万能ではないという位置づけです。

可視光で見たM51(左)と、星の光を差し引いて塵の構造だけを出した近赤外線の画像(右)
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたM51。左は可視光で撮った画像です。右は、可視光と近赤外線の画像から星の光の大部分を差し引き、塵の構造を浮かび上がらせた画像です。
Image Credit: NICMOS Image: NASA, ESA, M. Regan and B. Whitmore (STScI), and R. Chandar (University of Toledo); ACS Image: NASA, ESA, S. Beckwith (STScI), and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

ふたつ目は、赤外線で見たときの腕です。

生まれたばかりの青い星は、可視光で目立ちます。逆に年老いた星は、波長の長い赤外線のほうがよく見えます。では、赤外線で渦巻銀河を撮ると腕は消えるのでしょうか。消えません。腕はそこにあります。

1995年の研究は、正面を向いた渦巻銀河18個を近赤外線で調べています。その約半数に、腕と腕のあいだで明るさが2倍ほど違う、はっきりした2本腕の成分が見つかりました。可視光で見たときの華やかな差に比べれば、ずいぶん控えめな数字です。それでもゼロではありません。

腕は、若い星が描いた飾りではないということです。星の質量そのものにも、確かに濃淡があります。

短い波長の赤外線でとらえた渦巻銀河M81。3.6ミクロン(左)と4.5ミクロン(右)
Image Credit: NASA/JPL/Caltech/Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics

それでも、腕の寿命は決着していない|動的な渦状腕

ここまで読むと、話は片付いたように見えます。ところが、腕がどれくらい長持ちするのかは、まだ決着していません。

冒頭の写真のM51は、2本の腕がはっきりした渦巻銀河です。NASAは、この腕がこれほど目立つのは、右上にある伴銀河NGC 5195が近くを通り過ぎた影響だと説明しています。中心に棒状の構造を持つ銀河では、その棒が腕を駆動していると考えられています。外からの力や中心の棒に押されている渦は、長く保たれる波として素直に理解できます。

一方で、腕が何本もある銀河や、腕が切れ切れになった銀河もあります。コンピュータの中で円盤を回してみると、こうした腕は生まれ、巻きつき、ちぎれ、また別の場所に生まれます。この繰り返しは100億年続きますが、1本1本の腕はそれほど長続きしません。

2014年に出た総説は、棒を持つ銀河などを除けば、渦状腕は一時的なもので、何度も生まれ直しているという立場を取っています。この描像では、星はひとつの決まった速さで回る模様を通り抜けるのではなく、しばらく腕と一緒に動きます。

天の川銀河の腕がどちらの型なのかも、まだ決まっていません。位置天文衛星ガイアが測った星の位置と速度をもとに、腕の性質を確かめる研究が続いています。

ただし、どの説明を取っても変わらない点があります。腕は重力が作る密度の高まりであって、同じ星がいつまでも腕にとどまっているわけではない、という点です。渦が消えないのは、腕が星の並びではないからです。

今夜、私たちがいる腕|オリオン座の方向

整理します。差動回転する円盤の上で渦が巻きつぶれないのは、腕が星の並びではなく、重力が保つ密度の高まりだからです。そして腕が明るく目立つのは、そこで生まれた重い星が、腕を出る前に燃え尽きるからです。腕は星の集合ではなく、星が生まれ変わり続ける場所だと言えます。

天の川銀河の想像図。太陽の位置と腕の名前が記されている
天の川銀河を真上から見たようすを描いた想像図で、写真ではありません。下の中央の「Sun」が太陽の位置です。その内側の「Sagittarius Arm」がいて座腕、外側の「Perseus Arm」がペルセウス腕、太陽のすぐ近くの「Orion Spur」がオリオン腕(オリオン・スパー)です。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC/Caltech)

最後に、自分の居場所を確かめておきましょう。

NASAの図によると、太陽系はいて座腕とペルセウス腕のあいだにある、オリオン腕(オリオン・スパー)と呼ばれる小さな部分的な腕の近くにあります。夏の天の川が濃く見える方向は、内側の腕を何重にも重ねて見ている方向でもあります。

オリオン腕の名前は、オリオン座から来ています。冬の宵に昇ってくるオリオン座には、約860光年先で青白く輝く超巨星があります。その少し下には、いまも星が生まれているオリオン大星雲が広がっています。そこにある星の年齢は数百万歳。太陽が銀河を一周する時間よりも短い命です。

つまり、オリオン座の青白い光は、腕の中で生まれ、腕を出る前に燃え尽きる星の光です。私たちは、渦の模様が描かれている現場を、内側から見上げていることになります。

渦は、同じ星で作られた模様ではありません。星を入れ替えながら、天の川銀河は今夜も腕を描いている。

参考文献

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この記事を書いた人

夜空のしくみを物理からやさしく解説する天文メディア。執筆者の専門は電気化学で、国立天文台やNASAなどの資料を確かめながら書いています。

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