地球は、方位磁針が北を指し、オーロラが輝くほど強い磁場を持つ惑星です。この磁場は、太陽から吹きつける「太陽風」という高速の荷電粒子から、大気や生命を守るバリアの役割を果たしています。

大きさも質量も地球に近い金星には、この地球のような磁場(固有磁場)がほとんど存在しません。ただし、金星が太陽風に対して完全に無防備というわけでもありません。この記事では、金星に磁場が生まれない理由と、そのかわりに金星の周りに存在する別の仕組みを見ていきます。

金星に磁場がない理由 ダイナモ作用の3条件
惑星が固有の磁場を持つには、内部で「ダイナモ作用」と呼ばれる発電の仕組みが働く必要があります。
そのためには、まず内部に電気を通す液体金属があり、それが対流によって動き続けることが重要です。さらに惑星の自転は、この流体の動きを磁場を維持できる複雑な流れへと整える役割を果たします。
地球の外核は液体の鉄を主成分とし、内部では対流が起きています。そこに地球の自転が加わることで、巨大な発電機のようなダイナモ作用が働き、強い磁場が維持されています。

金星のコアと対流
金星のコアは、少なくとも外側の一部が液体である可能性が高いことが、重力場や自転の観測から示されています。自転は1日およそ243日と非常にゆっくりですが、水星のように自転が遅くても磁場を持つ惑星があることから、自転の遅さだけが原因とは考えにくいとされています。
現在もっとも有力な説明のひとつは、コア内部の対流が、磁場を維持できるほど十分に続いていないというものです。
地球では、内部の熱が長い時間をかけて外へ逃げることで、コアの内部にも対流を続けるためのエネルギーが生まれています。一方の金星では、地球とは異なる内部の熱の逃がし方をしていると考えられています。金星には地球のようなプレートテクトニクスが存在した証拠が見つかっておらず、内部の熱を外へ運ぶ仕組みが異なる可能性があります。
その結果、コアから熱が十分に逃げず、対流を起こす力が弱くなっている可能性があります。液体という条件を満たしていても、それを磁場を生み出せるほど動かす対流が続かなければ、ダイナモ作用を維持することはできません。


そのかわりに生まれる「誘導磁気圏」
固有の磁場を持たない金星ですが、周囲に磁場がまったくないわけではありません。金星の上層大気と、太陽風が運んできた磁場との相互作用によって、金星の周囲には「誘導磁気圏」と呼ばれる磁場の構造が作られています。
太陽風は、太陽から吹き出す電気を帯びた粒子の流れです。この流れには、太陽から伸びる磁場の一部も含まれています。金星に近づいた太陽風は、金星の上層大気にある電離層と相互作用し、磁場をそのまま惑星へ通すことができなくなります。
その結果、太陽風が運んできた磁場は金星の前方で押し縮められ、周囲へ回り込むような構造を作ります。電離層の中には電流も発生し、この相互作用によって太陽風の流れを受け止める磁場のバリアが形成されます。これが「誘導磁気圏」です。
誘導磁気圏は、地球の磁場のように惑星の奥深くから生まれるものではありません。太陽風と金星の上層大気が相互作用することで作られる、一時的な磁場のバリアです。そのため地球の固有磁場とは性質が異なり、太陽風との相互作用によって金星の大気中の粒子の一部は現在も宇宙空間へ逃げています。
だから何がわかったか
金星に地球のような強い固有磁場がないのは、コアが液体ではないからではありません。金星のコアには液体の部分がある可能性が高い一方で、現在は磁場を維持できるほどの対流が十分に続いていない可能性があります。
そして金星は、固有の磁場のかわりに、太陽風が運んできた磁場と上層大気が相互作用することで「誘導磁気圏」を作っています。惑星の奥深くから磁場を生み出す地球とは、太陽風に対するバリアの作られ方そのものが異なるのです。
同じように太陽の周りを回る惑星でも、内部の動きによって磁場の有無が変わり、太陽風との向き合い方まで大きく変わります。金星は、地球とよく似た大きさを持ちながら、まったく異なる磁気環境を持つ惑星なのです。
参考文献
- NASA|Venus
- Nimmo, F.|Why does Venus lack a magnetic field?
- Why doesn’t Venus have a magnetosphere?|Phys.org